魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
新天地を求めるにはそれぞれの理由がある。

現状に満足しない者や街に馴染めない者、そして何より1番多いのは、“各王国が支援を発表しているから”という理由。

しかも指揮を執っていたはずの白騎士リロイは、赤い瞳の真っ黒な格好をした男の指示を受けて動いていたという事実を皆がまだ呑み込めずにいる中、コハクは自ら正体を明かした。


「俺は魔法使いだ。そこのワン公やドラゴンも俺が使役してる。元々からして俺のこの瞳や俺自体が受け入れられねえかもしれねえが、ひとつ言っておく。俺はこの街の主にはならねえ」


それを聴いて誰よりも驚いたのはリロイで、人々は顔を見合わせてコハクの深意を量った。

コハクはたき火の炎を見つめながら炎の中で踊っている人型の女の精霊たちが皆に見えるようにぱちんと指を鳴らすと、人々は誘惑するように手を差し伸べて来る精霊たちに見入り、怖ず怖ずと声をかけた。


「ま、魔法使いはもう居なくなったんじゃ…」


「俺が最後の魔法使いだ。俺には目的があってクリスタルパレスの再建を始めた。だからお前らに干渉しねえし、逆に“こうしてほしい”っていうアイディアがあったらそこの白騎士小僧に言え。俺が考慮して、いい案は採用してやる」


言いたいことを一気に言ってその辺にあったワインボトルを一気飲みすると、デスもそれに倣ったように一気飲みした。

…そもそもさっきからずっと黙ったままのデスも注目の的になっていたのだが…さっきから俯いたままでぴくりとも動かない。


「というわけで、僕は皆さんのまとめ役にすぎませんが、不便に感じていることや助けてほしいことがあったら遠慮なく言って下さい」


「はいっ」


リロイは毎夜こうして人々の話を聴いて回り、信頼を勝ち得ていた。

皆がコハクの言葉に耳を傾けなくともリロイの言葉には返事をして笑顔を見せる。


コハク自体はそれをどうとも思っていなかったし、“魔王”と呼ばれ始める前からこの瞳のせいで迫害を受けて来た。


じっと視線を注がれてはいるが怖がって話しかけて来ない人々に肩を竦めて立ち上がろうとした時――


『まお……ご主人様ー!チビが来たよ!』


「へっ?」


――驚きと共に空を見上げれば、力強い羽音と共にゆっくりと上空を旋回しながらだんだんドラちゃんの姿が大きく見えてきた。


そして愛しい者の声。
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