魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ほぼ真っ暗な廊下を歩いて自室へ戻ったオーディンは、1本の蝋燭の灯りの下で本を読んでいたローズマリーの隣に腰かけ、ソファを沈ませた。
「楽しんできたみたいね。男だけなんてずるいわ」
「あなたは私たちより本を選んだでしょう?一応誘ったはずですが」
「私には聴こえなかったけどコハクが魔法で合図してきたんでしょ?“男たちだけで”って。男装すればよかったわけ?」
そう詰りつつも本から目を上げないローズマリーの肩にかけていたガウンが滑り落ちると、オーディンはそれを肩にかけてやりながら淡いピンク色の髪に触れて顔を近付けた。
「コハク様が心配しておられました。あなたが発作に苦しんでるんじゃないか、と」
「…いつまで経っても心配性ね。普段は傍若無人だけど、根は甲斐甲斐しいのよね。私は子供じゃないんだから心配しないでもらいたいわ」
「そうですね、あなたは子供じゃないですよ。全然」
…ローズマリーはコハクの話になると口が重くなるし、共に行動することを避ける傾向がある。
コハクと再会して、一緒に住んでいたコハクを追い出すことになった理由がつきまとって離れないのだろう。
仕方がないと思う。
コハクは強くてミステリアスで、女なら誰だって“抱かれたい”と思ってしまう美貌の持ち主なのだから。
「それよりもこの本とても面白いわ。土壌やこの辺りの気候のことが事細かく書かれてあるのよ。これは明日からの作業に役立つわね。手書きみたいだけどあなたが書いたの?」
「いいえ、コハク様ですよ」
ページを捲るローズマリーの手が止まった。
瞬きもせず本に目を落としている様をオーディンは隣で見つめていたが、しばらくすると空気が緩んで背もたれにもたれかかってやわらかい苦笑を口元に浮かべた。
「…覚えてくれているのね」
“探究心を失わずに”
コハクが小さな頃から口を酸っぱくして言い続けてきた約束。
甚大な魔力を持った今も、それに驕ることなく溺れることなく知識を得ようと貪欲でい続けるそのバイタリティーはコハクならではだ。
花開いたようにふわりと微笑んだローズマリーの心からコハクを追い出すようにして軽い身体を抱き上げたオーディンはそのままベッドへ運ぶと少しだけ乱暴にローズマリーを下ろした。
「私が忘れさせてあげますよ」
一瞬だけでも。
「楽しんできたみたいね。男だけなんてずるいわ」
「あなたは私たちより本を選んだでしょう?一応誘ったはずですが」
「私には聴こえなかったけどコハクが魔法で合図してきたんでしょ?“男たちだけで”って。男装すればよかったわけ?」
そう詰りつつも本から目を上げないローズマリーの肩にかけていたガウンが滑り落ちると、オーディンはそれを肩にかけてやりながら淡いピンク色の髪に触れて顔を近付けた。
「コハク様が心配しておられました。あなたが発作に苦しんでるんじゃないか、と」
「…いつまで経っても心配性ね。普段は傍若無人だけど、根は甲斐甲斐しいのよね。私は子供じゃないんだから心配しないでもらいたいわ」
「そうですね、あなたは子供じゃないですよ。全然」
…ローズマリーはコハクの話になると口が重くなるし、共に行動することを避ける傾向がある。
コハクと再会して、一緒に住んでいたコハクを追い出すことになった理由がつきまとって離れないのだろう。
仕方がないと思う。
コハクは強くてミステリアスで、女なら誰だって“抱かれたい”と思ってしまう美貌の持ち主なのだから。
「それよりもこの本とても面白いわ。土壌やこの辺りの気候のことが事細かく書かれてあるのよ。これは明日からの作業に役立つわね。手書きみたいだけどあなたが書いたの?」
「いいえ、コハク様ですよ」
ページを捲るローズマリーの手が止まった。
瞬きもせず本に目を落としている様をオーディンは隣で見つめていたが、しばらくすると空気が緩んで背もたれにもたれかかってやわらかい苦笑を口元に浮かべた。
「…覚えてくれているのね」
“探究心を失わずに”
コハクが小さな頃から口を酸っぱくして言い続けてきた約束。
甚大な魔力を持った今も、それに驕ることなく溺れることなく知識を得ようと貪欲でい続けるそのバイタリティーはコハクならではだ。
花開いたようにふわりと微笑んだローズマリーの心からコハクを追い出すようにして軽い身体を抱き上げたオーディンはそのままベッドへ運ぶと少しだけ乱暴にローズマリーを下ろした。
「私が忘れさせてあげますよ」
一瞬だけでも。