魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
リロイとグラース、そしてティアラの部屋は同じフロアにあるので、深夜足音で起こさないようにと気配を殺して廊下を歩いていたのだが、それを察したようにティアラの部屋のドアが少しだけ開き、顔を出して笑いかけてきた。


「リロイ」


「ティアラ…もう遅いですよ。どうしたんですか?」


「あなたが部屋を出てどこかへ行ったようだったから…またクリスタルパレスに行ったんじゃないかって心配してたんですよ」


…純粋に慕ってくれるティアラに笑みを返したリロイは、薄いガウン1枚のティアラの格好から目を逸らしつつ前に立ってドアを内側に大きく開いた。


「もう春とはいえまだ寒いですから、そんな格好で外に出ない方がいい。睡眠を沢山とらないと肌が荒れますよ」


「!も、もうっ」


普段は薄化粧をしているのだが、風呂に入って化粧を綺麗に落としたティアラの表情はどこかあどけなく、緩やかに吊った目元が下がった。


出会った時はつんけんされてどうしようかと思ったが…

それはかりそめの姿で、今目の前に居るティアラが本当のティアラ。


「紅茶を飲んでから寝ようと思っていたんです。…中へ入りませんか?」


「や、ですが…」


「付き合って下さい。飲み終わったらすぐ戻っていいですから」


――ティアラとて、リロイが想いに応えてくれないこと自体重々承知している。

まだラスに未練があるのか…

それともあの一回り以上年上の男と自分が結婚しても何も感じないのか…


あの一夜だって無理矢理約束を取り付けたようなものだったのだから、最初からどうとも思われていなかったのかもしれない。


そう考えると少しだけ涙ぐんでしまったが、リロイに見られないように身を翻すと、暖炉にかけてあったポットを手袋をして取り出すと、自分の分だけ用意していたティーカップに注いだ。


「明日はみんなで農作業をするんですって。私、鍬も持ったことがないのに」


「腰を痛めると大変ですからティアラはラスの傍についてやって下さい。あなたの分だけ僕が頑張りますから」


「本当?」


“あなたの分だけ”という言葉が嬉しくてはにかむと、リロイとティアラは一瞬だけ見つめ合った。


見つめ合った時間の分だけ想いが交わされる。

ティアラは想いをこめて、その一瞬に賭けた。
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