魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
明け方、グラースは誰よりも早く起きて身支度を整えると、見回りのため白騎士のマントと鎧を見に付けて鏡の前に立った。


「よし」


ラスの傍に居て彼女を守り続けて2年以上が経った。

コハクとの約束だったとはいえ、コハクの死を認めずに2年以上も純粋に慕い続けたラスをすごいと思ったし、守らなければいけないと思っていたが…もうその必要はないかもしれない。


――グラースが螺旋階段を下りて1階へ向かうと、1階の最後の階段の1段にデスが膝を抱えて座っていた。

…膝を抱えて城内で日傘をさしたまま。

そして手にはレザーグローブを嵌めていたので、首を傾けて顔を覗き込みながら階段を降り切ると、その視線を避けるようにデスの首が逆方向へと傾いた。


おかしな死神だ。

これはグラースの想像でしかないのだが、死神というのは骸骨で、恐ろしく強くて邪悪な存在。

だが目の前に居るデスは手こそ骨だったが、とてもじゃないが“怖い”という印象とは程遠い。


「…何をしているんだ?」


「…………待ってる」


「ラスをか?」


度々城内でも城外でもラスがデスの手を引いて歩いている姿を見かけるし、その後ろをコハクがふてくされた表情でついて行っている姿が皆の笑みを誘っていた。

ラスは庇護欲をそそられるのか、何から何までデスに教えていたし、デスはラスとコハクの言うことなら素直に聞いて従っている。


…時々まん丸になっていいじけている姿を見かけるが。


「…ちょうど何かあたたかいものを飲みたいと思っていた。お前も付き合え」


「…………」


「後でラスも来る」


「………うん」


ラスからは、“デスに赤ちゃんを助けてもらった”と聴いていたが、どういう意味なのかわからなかったしまたこちらも突っ込みもしなかったが、この死神は危険人物ではないらしい。

素直に後ろをついて来ると食卓の間であたたかいココアを淹れてやり、無口な者同士それからは無言で向かい合って座ったままココアを飲み続けた。


真っ黒なローブをしっかり着てフードを目深に被っていたが、綺麗な顔立ちの男だというのは以前知っていたので、実は俄然興味が沸いていたのだ。


「お前、恋人は居ないのか?」


「………何それ…?」


グラースの日常が少しだけ楽しくなった瞬間。
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