魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
精霊界へ行く時に着て行った防寒防熱対策が施された白いローブに軍手を嵌めた完全装備のラスは鼻息も荒く拳を振り上げて今すぐに荒れた開墾地に突っ込んでいきそうな勢いだった。


「コー、早く行こっ。果物の種とお花の種を沢山植えるのっ」


「チビ、待てって。今土を運ばせてっから。そんでもって俺の出番ってわけ。あのさー、チビに褒められたらさあ、俺すっげえー頑張れるかも」


「よしよし。コーは最高の魔法使いで最高にかっこよくて私を幸せにしてくれる最高の旦那様だよ」


真っ黒でさらさらな髪を撫でてちゅう、と瞼にキスをすると、俄然やる気が出たコハクはラスを抱っこして足早にコロニーの北にある開墾地へと向かった。

長らく放置されていたせいで土は痩せ、開墾地を囲んでいる柵は歪み、朽ちそうになっている。

事前にコロニー内で協力者を募っていたので、300人ほどの中から屈強な男たちと繊細な仕事をしてくれる女たちを100人ほどに絞って選び抜き、柵の作成はグリーンリバーから連れてきた改造済みの魔物たちにさせることにした。


「サラマンダー。ノーム。ウンディーネ。シルフィード…俺に力を貸してくれ」


四精霊を一気に召喚するのは骨が折れるが、大地に翳した掌の下にできた赤い魔法陣を見つめてわくわくしているラスを見たらこんなの大したことないと思える。

精霊を見たことのない人々が見守る中魔法陣からするりと抜け出てきた四精霊は、その場に居合わせたすべての人々に実体化した姿を見せ、感動を与えた。


「おお…精霊だ!あの方は本当の魔法使いなんだ…」


ざわざわとさざ波のように声が揺れ、ラス以外に誉められても嬉しがったり自慢したりすることのないコハクは、目の前で長い舌をちろちろと出して威嚇してくるサラマンダーに強く命令をした。


「クリスタルパレス以外はまだ寒いし土も凍ってる。お前の炎でちゃちゃっとあっためてくれよ。ノームたちの出番はその後だ」


『俺をぞんざいに扱うな。…チビ娘か。俺を抱け。そしたら言うことを聴いてやる』


「うん、わかった」


「だーめー!エロ蜥蜴が!しっかり働け!お前…俺とやんのか?ああ?」


「コー、喧嘩は駄目」


ラスに頭を撫でられたサラマンダーは霜が降りた土に勢いよく炎を噴き出した。
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