魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスに誉められたいがためにサラマンダー以外にも張り切っている者たちが居た。


『僕もチビに誉められてお腹触ってもらうんだー』


『ふざけるな。その役目は俺だ』


…ドラちゃんとケルベロスだ。

双方共に破壊的な炎を吐くので、逆に熱し過ぎて土が使い物にならなくなるのでは…と一瞬コハクは危惧したが、彼らはちゃんと炎の温度を調整して吐いていたので、脇に積み上げられた鍬やスコップの山から鍬を取ると横のデスの胸に押し付けた。


「ほら、お前もやれよ。お、ちょうど土も来たし頃合いだな」


コハクが上空を見上げると、飛行部隊の魔物たちがそれぞれの脚にグリーンリバーから持ってきた土が入った袋を引っ掻けていて、サラマンダーたち獣部隊が熱した土の上から盛大に熟した土を上空から振りかけた。


「デス、頑張ってねっ」


「…………うん」


ラスに手を振られてこっくり頷いたデスは、横にグラースが移動してきていたのを横目で見るとふいっと顔を逸らしてコハクの笑みを誘った。


「グラースとくっつけば多分なんでもやってくれるぜ。あーんなことやこーんなことをな。いいないいなー」


「………」


「鎧つけてっからよくわかんねーけど、むっちゃナイスバディだぞ。胸もボインよりでかくてさあ、腰だって…」


「…………」


「ああ、なんでもやってやる。お前は何も知らなくていい。私が全て教えてやる」


「…………いい。ラスに…教えてもらう…」


「はあ!?何を!?あ、間違えた。ナニを!?」


コハクが気を乱すとふわふわと宙を舞っていたウンディーネたちが抗議の声を上げて耳元で飛び回った。


『ちょっと!集中してよね!協力してあげないわよ!』


――その頃ラスは開墾地の隅っこでグリーンリバーから到着した果実や花の種を手に取って楽しそうにしていて、デスは手に触れてきたグラースの手を振り払った。


「………触らないで」


「魔王からラスを奪う気か?それは限りなく不可能だと言っておく。私にしておいた方がいいぞ」


「…………」


――そうなのだろうか?

ラスと居るとふわふわするし、色々教えてもらえてとても楽しいし、ラスは良い匂いがする。


「………奪う…?」


誰から、何を?

コハクから…ラスを?


「私にしておけ」


そのグラースの声は耳に届かなかった。
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