魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
隣で大人しく種を植えているデスは落ち着きを取り戻し、時々目が合うと小さく笑いかけてくれるまでに回復した。

微笑ましく思っていると、種を植えた傍からウンディーネとシルフィードとノームが土を活性化させたり、吹くはずのない春風を作ってくれたり、成長を促進させる特別な水を振りかけたりそれぞれの役目を果たし、その姿に人々は見入っていた。


「デス見てっ!今植えたのにもう芽が出てる!」


はしゃぐラスが今出たばかりの芽を指しながら笑いかけると、デスはスコップで土を掘り返して種を植えながらぼそりと呟いた。


「………生きてる…」


「そう、生きてるの。この芽がお花になったり果物になったりするんだよ。すごいね、楽しみだね」


「………俺の仕事とは…逆…」


死神の役目は命を刈ること。

命を刈るこの手が生を作り出してもいいのだろうか?


――ぼんやりと造作の無いことを考えていると、遠くで雷鳴が聴こえた。

はっと顔を上げたラスの表情がみるみる曇ったのを見たデスは、不安げにそわそわと身体を動かしているラスの頭を撫でると顔を覗き込んだ。


「………?」


「あ、あのね、雷が…」


「おいデス!チビを城の中に連れてってくれ!俺はここから動けねえから」


「……?わかった」


暗雲はみるみる頭上に広がり、コハクが開墾地を包み込むように結界を張ったのを見たラスはなんとか声を張り上げて元気を装った。


「こ、コー、先に戻ってるね!ごめんねっ」


軽く手を挙げたコハクについて来てもらいたかったが、ぐっと堪えて立ち上がった時…駆け足競争でラスを城まで運ぶ権利を得たケルベロスが地にぺたんと這いつくばって乗りやすいようにしながら急かした。


『早く早くっ。雷と大雨が来ちゃうよ』


するとあれほどまでにローブを脱ぐのをいやがっていたデスが呆気なくすっぽりとローブを脱いでラスの頭から被せたので、それを目撃したグラースがひそりをコハクに声をかけた。


「今私とラスの間は何馬身差だ?」


「ハナ差…と言いてえところだがチビがぶっちぎってんな。よう、寝こみでも襲ったらどうだ?」


「ああ、そうしてみよう」


2人が悪巧みをしながら舞い上がったケルベロスを見上げ、降り出した雨からラスを庇うように背中から抱きしめたデスにグラース、舌なめずり。
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