魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
抱き着いたつもりだったのが…いつの間にかデスに抱きしめられる格好になったラスは、デスが大きな赤ちゃんのように思えてきてすべすべの白い頬に頬ずりをした。


「デスって赤ちゃんみたい。身体はコーみたいに固いけど、すべすべしてるしなんにも知らないし、私も人に何かを教えるのってはじめてだからとっても楽しい」


「………俺も…楽しい」


「うん。雷止んだね…良かったぁ…私雷が苦手なの。ほんとはコーに一緒に居てもらいたかったけど…」


忙しいコハクの手を煩わせるわけにはいかず、“常に身体最優先で!”と重々言われていたラスは冷たい雨に打たれるわけにはいかなかった。

ベルルがくれた虹色の腹帯があるとはいっても油断したくないし、デスがこうしてコハクの代わりに守ってくれたことが嬉しい。


「…雷…?魔界…ずっと鳴ってる…」


「え!?あ、あのね、コーのお城があるところもいっつも雷が………」


――そう言ったきり時が止まったかのように瞬きもせずグリーンの瞳を見開いたままのラスの頭を撫でたデスは、落ち着いた身体がまた暴れ出すのでは…とやや不安になりつつラスを引き寄せた。


「………どうした、の…」


「…私…覚えてないの。コーがリロイに刺されて…そこからゴールドリバーの私の部屋で目が覚めるまで、全然覚えてないの。…あそこには…今もあるのかな。…コーの血が…」


…コハクがあの白騎士から刺されたこと…コハクからなんとなく聴いてはいた。

長い間音信不通になった理由はコハクがラスの影になり、そして殺されかけたのだと納得したが…


あの破天荒な風来坊に大切な人が。

はじめてビーストの城でラスを見た時は戦闘の喜びのあまりにあまり印象を覚えていないが…


「…………大丈夫。…よしよし」


「ふふ、ありがと。目がとろとろしてるよ、眠たいの?お昼寝しちゃおっか。子守唄歌ってあげようか?」


ラスの頭を撫でていたデスの手がだんだんゆっくりになり、もっとラスを見ていたかったのだが、睡魔に負けたデスが眠りに落ちてゆく。


そんなデスの寝顔はあどけなく、長い睫毛にキスをしたラスは完全に寝入ったデスを置いてベッドを下りると隣の王と王妃の私室に戻った。


最近コハクはデスを怒ってばかりなので、今日は甘やかしてあげよう。


そしてラスもベッドに入り、惰眠を貪った。
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