魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
そして夕暮れになった頃…大して疲れてもいないコハクが大げさに肩や首をばきばきと鳴らしながら部屋に戻ってきた。


「あー疲れた!すげー疲れた!歩けねえほど疲れた!」


だが出迎えてくれる声はなく、キングサイズのダブルベッドにはラスがまん丸になって眠っていて、脇にはマタニティ関連の本が沢山置いてあった。

これはラスの妊娠が発覚してからコハクがかき集めた本で、その数は優に100冊以上はある。

ストレッチ法や呼吸法、胎児に良いとされる料理のレシピや、不安になった時に読むと心がリラックスするものなどの中からラスが選んで読んでいたのは…


「“パパと一緒に迎える出産”…か」


まだラス本人の口から聴いてはいないが、この本を読んでいるからには出産に立ち会ってほしいのだろう。

それはもちろん大歓迎で、ラスが“やだ”と言っても絶対立ち会うつもりだったので、何ら問題はない。


――ラスを起こさないように傍らで両膝を折って寝顔を覗き込んだ。

…2年という歳月がラスを劇的に変えて、少女から脱皮した大人のラスははっきり言ってまだあまり見慣れない。

綺麗になるだろう、とは思っていたが、まさかこれほどまでに美しくなるとは――


「…滅茶苦茶にしなくてよかったなー…」


「何が?」


「お?起きてたのか、この狸寝入りっ娘め」


「コー、お帰りなさい。お疲れ様でした」


新妻全開で迎えてくれたラスと小さくキスを交わしてベッドに潜り込んで腕枕をしてやると、ラスが手を伸ばして例の本をコハクに見せた。


「まだ気が早いと思うんだけど…あのね…えーと…これ読んでたらね、あの…」


「立ち会うって。ベビーが生まれてくる世紀の瞬間に部屋の外で待ってるなんて絶対いやだ!パパは絶対立ち会いまちゅからねー」


布団の中に潜ってラスの腹にキスをしたコハクの髪を撫でたラスは、腹に圧がかからないように覆い被さってきたコハクの赤い瞳を見つめて微笑んだ。


「ありがとう、コー。あとね、デスと喧嘩しちゃやだ。デスは赤ちゃんと同じなんだから、怒ってばかりだとひねくれちゃうよ」


「えー?!ったく…チビは最近デスのことばっかで俺を構ってない!俺を構ってくれ!」


「きゃあーっ!」


こちょこちょとわき腹をくすぐられて可愛らしい声を上げたラスともみくちゃになりながら、癒されてゆくのを感じた。
< 391 / 728 >

この作品をシェア

pagetop