魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
最初から神に言われていたことじゃないか。


あの女の子は“特別”なんだって。


――だがデスには知らないことが多すぎる。

恋も愛も知らないし、ましてやラスをどうこうしようとも全く思っていないし、こうして頭を撫でたり手を繋いだりしてくれるだけで癒されている。


…もし…

もし、さっきの時のようにこの小さくて花弁のような唇に唇を押し付けてみたらどうだろうか?

あれには何か意味があるのだろうか?

コハクがよくしているのを見かけるけれど…コハクしかしていないのだから何か特別なことなのだろう。

あれを自分がすればきっとものすごく怒られるに違いない。


「落ち着いた?背中撫でてあげる」


「………うん、大丈夫。……俺…仕事に行く」


「仕事?…あ、うん、そっか、気を付けてね。行ってらっしゃい」


ラスにだってデスが死神で、その役目を全うするために人の命を刈らなければならないこと位知っている。

が、それは神から定められたことで、デスが自ら望んでやっていることではないのも知っている。


やるせない想いになるが、黙々とパンツの後ろポケットからレザーグローブを出すと手に嵌めて引きずっていたローブを着ると、コハクがデスの頭にぽんと手を乗せた。


「行って来い。そんで、済んだら戻って来い。ま、お前には聴きたいことが山ほどあるからよ。イロイロな」


「…………うん。じゃあ…」


“行って来ます”。


か細い小さな声だった。


誰かに“行って来ます”と言ったのは、これがはじめてのことだった。


ラスが手を振って笑顔で送り出してくれる。

コハクが髪をくしゃくしゃにして笑いかけてくれる。


…コハクは唯一の友達だ。

友達を悲しませるようなことはしたくないから、さっきグラースにされたことみたいなことはしてはいけない。


―――デスがバルコニーに出て行ったので見送ろうとしたラスが追いかけて行った時には、すでにデスの姿はなかった。


「コー…行っちゃった…」


「ま、元々デスと俺らは住む世界が違うしあいつは神だけど、あいつ…本当になんも知らねえんだ。俺も怒らねえように努力するけど、あいつをよろしくな」


「うん、わかったっ」


背中から抱きしめてくれた愛しい男の身体にもたれ掛って夜空を見上げた。
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