魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
遠くに見えていた雷雲がぐんぐん近付いてくるうちにラスの表情もぐんぐん暗くなり、しまいにはコハクの胸に顔を埋めて抱き着いたまま顔を上げなくなった。


コハクは窓から外を見ながら懐かしさが込み上げてきて、あの城でカイと戦ったりリロイと戦ったり…ラスを抱いたり。

一瞬にして記憶を駆け巡ると、ラスの背中を撫でてやりながら両手を擦って冷たくなった手に息を吹きかけてやった。


「チビ、そろそろ着くぜ。どした?チビが行きたいって言ったんだろ?」


「…うん。でも怖い…。コー、絶対ずっと一緒に居てね?」


顔を上げたラスの瞳は潤み、神妙な顔をして見せたコハクは内心しおらしいラスを撫でくり回したい欲望を堪えながら可愛いお尻を撫でた。


「居るって。しっかしあれだな。扉が全開だな」


――コハクにとってもリロイから刺された後はどうなったからラスの情報だけでしか知らない。

またラスとてゴールドストーン王国に着くまでティアラの魔法で無理矢理眠らされていたので、魔王城がどういう状態になっていたのか今まで知る機会に恵まれなかった。


馬車は緩やかに螺旋を描きながら下降して鋼鉄製の大きな正門の前で止まり、目を凝らして魔王城の大扉を見ると、扉は開けっ放しになっていた。

だがここを訪れる人もいなければ魔物も居ないので、荒れた様子は一見見受けられない。


「よいしょー。さ、抱っこしたぞー。もうやだっつっても連れてくからな」


「や、やだとか言ってないもんっ。コー、お尻が火傷しちゃうから撫でないでっ」


「いやだねー。大きくして安産型になるようにこれからも撫で回すからな」


頬をぺろぺろと舐めるとようやく笑い声が上がり、しきりに左手薬指に嵌まっているガーネットの指輪をいじりながら緊張を解そうとしているラスの鼻を甘噛みしつつ、件の目的の部屋の前へと着いた。


…ここで数百年過ごした。

ローズマリーと暮らしていた年月以上をこの部屋で過ごして、研究をしたり改造をしたり魔物を狩ったりして過ごした日々。


そして、ラスと一夜を共に過ごした部屋。


「チビ…いいな?入るぞ」


「…うん、わかった…」


入るも何もここの部屋もまたドアが開けっ放しで、急いでここを離れた形跡がここかしこに残っていた。


そして血痕は…バルコニーに続いていた。
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