魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ベッドの傍には少量の血痕が落ちていた。

ラスはそれを見るなりまた首に抱き着いてぎゅっと瞳を閉じたが、コハクは冷静にその血痕が続くバルコニーへと目を遣った。


「やっぱ俺はバルコニーで刺されたのか。だよなー、“チビとも1回!”って張り切ってた直後だったなー」


「コー…これ全部…コーの血なんだよ…?」


2年も放置されてぱりぱりに乾いた血痕。

いやがるラスを下ろして膝を折ると、指先で黒く変色した血痕に触れてみた。

ぱりぱりという儚い音と共に粉状になり、風に乗ってバルコニーへと飛んでゆく。



「影からちゃんとした人間に戻って…たった1日か。それでも俺はその1日ずっと幸せでいられたんだ。小僧に刺されても、考えるのはチビのことばっかだった。“俺が居なくて大丈夫かな”って。“ああでも小僧が幸せにしてくれるか。これは全部夢だったんだ”ってさ」


「コー!夢なんかじゃないから!ずっと一緒に居たでしょ?ここで私…私…目が覚めたらリロイが立ってて…剣を持ってて…血が…!」



両手で顔を覆って泣き崩れたラスを支えたコハクは、そのまま抱っこしてこの時ラスを甘やかすのをやめた。


一緒に見なければ。

天国も。

地獄も。


「チビ、バルコニーに行くぞ。ああほら、見えてきた」


涙が伝うラスの頬をまたぺろぺろと舐めて、最期になるかと思ったバルコニーへと着いた。


…そこにあったのは、一面に広がる大量の血痕。

こんなに出血しては、人に戻った自分は生きてはいなかったはずなのに…それを救ったのは、四精霊だ。



そして、床に残る爪痕を見つけた。

最期に…

最期にラスを一目見ようと思って爪を立てながらも身体を動かそうとした痕跡――



「ここで…俺は…」


「目が覚めた時…コーは居なかったの。リロイが立ってて…“僕が殺した”って言ったの。ああ…私…思い出してきた…」



元々大きなラスのグリーンの瞳が見開かれ、血痕から目を逸らさずに震える声で2年前の記憶を紐解いてゆく。


『コー!コーをどこにやったの!?コーは死なないもん!コーは強いだから!ねえリロイ、意地悪しないで教えて!冗談なんでしょ!?ねえ、リロイ!!』


何度も絶叫して、何度もリロイの胸や腕や肩を叩いて訴えかけても無言だったリロイ。


絶望で満たされてしまった、あの時の自分――
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