魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
次々と場面が切り替わってゆく。

ラスは、コハクの傍で介抱し続けるウンディーネの視点からコハクを見守り続けた。


…自分は塞ぎ続けて全く前進できなかったというのに。

最初の1年間は本当に…廃人だった。

部屋から出れたのは半年後のこと。

それまでは夜中になって誰もが寝静まった頃、夢遊病者のように脚が聖石の間に赴き、壁に飾られている魔法剣を見に行き、ゴールドストーンの温かみに涙を零し、死を躊躇して部屋へ引き返す日々。


あの日々は本当につらくて…


ただ続けていたのは、自身の影に話しかけ続けたこと。

コハクは今も影の中に隠れてからかっているのではないか、と思い込もうとしていた。


「コー…つらいのは…私だけじゃなかったね」


コハクも戦っていたのだ。

何度も高熱が出て、コハクが苦しんでいる姿を今まで見たことがなかった。

いつも飄々としていたから、コハクは病気もしなければ無敵なのだとどこかで思い込んでいたのだ。


「四精霊さんも…ありがとう。コーはみんなのおかげで今私の傍に居てくれてるんだね」


――ラスがぽつんと呟いた時、急にオーバーフラッシュしたように真っ白になったので、反射的に瞳を閉じると…


『魔王…!?魔王が目覚めたわ!』


そのウンディーネの声にはっとなったラスが瞳を開けた。


優しくあたたかい風がカーテンを揺らして吹き込む中、コハクの瞳はゆっくりと開き、半開きの形の良い唇がすぐさまひとつの単語を発した。


「チビ…」


『魔王!あなた2年も眠ってたのよ!ああよかった…!おチビさんもきっと喜ぶわ!』


焦点が定まっていなかった切れ長の赤い瞳がだんだん定まり、口々に“おチビさん”と連呼するウンディーネたちに目を遣ると急に弾かれたように身体を起こした。


「チビ!チビに会わせろ!どこに居るんだ、ここはどこだ!」


『ここは精霊界よ。あと数秒遅れていたらあなたは死んでいたわ。私たちが救ったの。だけど…2年が経ったわ。おチビさんは…』


「2年…ああ…そっか…俺は小僧に刺されて…」


コハクが穴が空いていたはずの左胸を見下ろし、次いで苦笑すると自身の未来を諦めかけた。


「じゃあもう今頃小僧と…」


『あなたを待ってる。2年間、ずっと祈り続けてるわよ。“コーを私に返して”ってね』


「…チビ…」


帰らなければ。
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