魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
…コハクを疑っては駄目だ。

この人のお嫁さんになるのだと決めたのだから、自分だけはコハクを信じていないと。


――ラスは自身にそう言い聞かせて、絶句したままどこか呆然とした表情で見つめてくるコハクの視線を振り切ってデスの首に抱き着いた。


「デス…お散歩しよ。下に連れて行ってくれる?」


「………うん」


「チビ…俺は…」


「大丈夫。ちょっとお散歩するだけだから。難しいお話になりそうだし、そういうのわかんないから席を外すね」


「チビ…」


“一緒に居てほしい”。

コハクが瞳で訴えかけてきたが、ラスとてコハクとローズマリーの過去を全て受け止めきれたわけではない。

何十年…何百年かもしれないが、あの水晶の森の奥にある小さな家で共に暮らし、共に1つのベッドで眠り、共に…愛し合った過去。

子供の自分は大人なコハクとローズマリーの過去を知る度に、胸がちりりと焦げる気がする。


だから、今はここを去らなければ。


「………俺が…ついてる…」


「…ん、わかった。チビ…すぐ帰って来いよ」


「うん、わかった」


デスの首に回ったラスの手は冷たくて、あまり空気を読むことのできないデスにさえ、この場にラスを置いては行けないと判断して抱っこしたまま部屋を出て行く。


――そして部屋に2人きりになったコハクが深く息をつくと、オーディンは申し訳なさそうにまた頭を下げた。


「申し訳ありません、ラス王女が居ない所でするべき話でした」


「…いや、いい。お前…本気なんだな?お師匠は…ローズマリーは了承したんだな?」


「ええ。彼女には時間が必要です。あなたを忘れようとして過ごしてきた日々のなんと無駄だったことか。彼女の知らない世界を。文献だけではなく実際その光景を目にして感動して…そしてきっといつか、傷は癒えます」


点々と場所を移して旅を続けるオーディンが選んだのは、魔法の何たるかを1から教えてくれた大賢者ローズマリー。

あの家から出たかったわけじゃない。

狭い世界でずっと暮らしてもいいと一瞬でも思っていたこと…忘れてはいない。


「…お前に任せた。ローズマリーを…幸せにしてやってくれ。俺にはもう…できない」


「お任せください。そしていつかまたあなたの元へと帰って来ます。…2人で」


コハクはゆっくりと瞳を閉じた。
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