魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
2人が目配せをしたことにラスは気付き、コハクの腕から降りると黙ったままついて来ていたデスに手を伸ばした。


「ちょっとあっち行ってるね。デスっ、ひよこが居る!あっち行こ」


「チビ、ここに居ろって」


「どうせすぐ帰らなきゃいけないんでしょ?色々見て回りたいからデスと牧場に行ってくるね。行こ」


「……うん」


コハクの真似をしてラスをひょいっと抱っこしたデスは、ちらりとコハクの顔を盗み見た。

…恋人同士だったコハクとローズマリーを2人きりにしてもいいのだろうか。


「すぐ行くから。デス、頼んだぞ」


「………わかった」


――デスたちを見送った後、目の前でエプロンについた土を叩いて落としているローズマリーの懐かしい姿に笑みが零れた。


「最近ずっとここで土いじりしてたんだろ?お師匠…チビが“最近全然話をしてない”って気にしてたぜ」


「あらそうなの?つわりで具合が悪そうだったから部屋を訪ねるのは遠慮していたんだけれど…じゃあ今日にでも雑談しに行こうかしら」


「今日は駄目!それと俺から話があるから明日の夜、予定を開けておいてくれ」


…かつて執着した女と、かつて見限られた男――

それでもコハクは重い持病を抱えるローズマリーを放っておけずに持病に効く薬を声をかけずに家の前に置き続けたが、ローズマリーは1度も戸を開けて出て来なかった。


吹っ切れるのに…どの位時間がかかったことか。

今はもう過去のことだけれど、独りになって呆然として、独りになるローズマリーのことも沢山心配したこと…


ラスを大切に想わなければ、今もローズマリーは心に棲み続けていたかもしれない。


コハクは柵にもたれ掛って腕を組み、農場に隣接している牧場で頭にひよこを乗せてはしゃいでいるラスを見つけてうっとりする微笑を見せた。


「オーディンと旅に出るって聴いたぜ。薬も俺が作ったのより効果のあるものを開発したって言ってた。お師匠…大切にしてもらえよ。独りで生きてくのはもうやめろよ。オーディンならお師匠を幸せにしてくれる」


「……優しくしないでよ」


「へ?今なんか言ったか?」


「なんでもないわ。話は明日の夜でいいんでしょ?私これでも忙しいのよ。じゃあね」



背を向けたローズマリーは、血が出る程拳を握りしめてコハクから逃げるように立ち去った。
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