魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ぐすぐすと鼻を啜る音がして、コハクはそういう時いつも胸がしくしくと傷む。

こんな気持ちになるのはいつもラスが関わっている時だけで、多忙なカイたちに“私と遊んで”と1度も言わなかった幼い頃のラスを思い出した。


「チビはカイとソフィーが大好きだもんな。あいつらを困らせまいと我が儘は言わなかったけど、その代り俺と小僧に我が儘言い放題だったよな」


「だってお父様は“勇者様”なんだもん。一緒に居てって言いたかったけど言っちゃいけないの。困った顔させたくなかったの」


「カイ陛下たちはいつも心配してたよ。君はお転婆だったし部屋でじっとしてなかったし、いつもはらはらしてたんだから」


余計に涙が出てきたのかシャツの袖が濡れる感触がしたので、コハクはラスを膝に乗せて額にちゅっとキスをすると、鼻にティッシュをあてて涙を拭いてやった。


「ほら、ブサイクになってんぞ、鼻噛めって。チビ…小僧の説得しなくていいのか?このまま帰っても俺は別にいいけど」


「!駄目!私…頑張らなきゃ」


ちーんと鼻を噛んだラスは瞳が真っ赤なままだったが、優しい笑みを浮かべている“勇者様”そのもののリロイの膝に上り込むと、肩を揺すった。


「リロイ、お願いがあるの」


「うん、なに?影が睨んでるから膝から降りてほしいんだけど…」


「やだ。あのね、あの…リロイにここに住んでほしいの。だからえっと…、ここの王様になってほしいの!」


「え?ラス…なにを言ってるの?ここはみんなが作った街だし僕は単なるまとめ役だから僕には荷が重いよ」


あくまで謙虚な姿勢を崩さないリロイが絶対に相応しいはずなのに頑として固辞するので、ラスはぶんぶん首を振ってリロイの頬を両手で包み込んだ。


「リロイしか居ないよ。みんなリロイを慕ってるし、私だってそう。“勇者様”がここを治めるべきなの。リロイ、よく考えてね。私…ずっとリロイと居たいよ」


またコハクが鼻に皺を寄せたが、黙っていた。


不死になるということは、数えきれないほどの別れを経験するということ。

ラスはそれから逃げずに真っ向から受け止めようとしている。


リロイは先に死ぬ。

ティアラやグラースも、先に死ぬ。

わかっていても、受け止めようとしている。
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