魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
この2年間、何度ラスから“大嫌い”と言われたことだろうか。


部屋に引きこもって出てこないラスを無理矢理にでも連れ出そうとして、半狂乱になって“大嫌い”を連発されたこともある。

部屋から出て来たかと思えば、声をかけると無視で、奇跡的に返ってきた言葉といえば…


『コーを返して』


…つらかった。

ただひらすらつらい日々だった。


魔法剣に取り込まれた水晶に操られたあの一瞬の出来事で、ラスも自分も絶え間なく苦しみ、絶叫し、懊悩した。

それでも恋焦がれて離れられなくて、時々見かけるラスはどんどん綺麗になって、それを見せて喜んでくれる相手も居なくて…

相手は、自分でこの手であの魔法剣で刺して殺してしまったのだと思っていたけれど…

今その男はテーブルに脚を投げ出して組むと、自分の膝の上に乗っているラスから絶対に視線を外さなかった。


この男が…魔王が戻って来てくれたから、ラスは許してくれたのだ。

もし戻っていなかったら、一体自分はどうなっていたのだろうか。

ラスは…生きていただろうか?


「ラス…ひとつ聴いてもいい?」


「うん?なあに?」


――あの時耳をつんざいた“大嫌い”という言葉を自分に浴びせたのをまるで覚えていないようなラスの笑顔は正直…苦痛だ。

許してくれたとはいえ、自分の心は自分自身をけして許してはいない。

だからこそ、聴かなければ。


「…僕に何度も“大嫌い”って言ったの…覚えてる?」


「……うん…。リロイが…コーを刺したから…」


「そんな信用できない僕を信用してもいいの?君の傍に居ると僕はまた過ちを侵してしまいそうになるんだ。だからそのお願いは叶えてあげられない。ごめんねラス」


「おい小僧。それはチビのせいだって言いてえのか?違うだろ?お前がお前自身を怖がってるだけだろ?」


「…そうだ、僕は僕が怖い。君のことが大切だし、ずっと傍に居てあげたかったけど…」


「…やだ」


「え?」


小さな声で呟いたラスが膝から降りて、唇をぶるぶる震わせながら地団駄を踏んだ。

驚きのあまり言葉に詰まっていると、ラスは拳を振り上げてリロイの胸を叩くと当たり前のように言い放った。


「駄目!リロイは傍に居なきゃ駄目!絶対駄目!」


懐かしい我が儘に、リロイとコハクは同時に同じ種類の笑みを零した。
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