魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ゴールドストーン王国の城に久々に可愛くて明るい声が戻った。


ラスはお転婆だったがカイたちの言うことはよく聴いて、我が儘を言ったことはほとんどない。

その代りコハクやリロイが被害に遭っていたわけだが、ラスの我が儘は大抵可愛いものばかりだったし、彼らはラスのことが大好きだったので、不満を覚えたこともなかった。


「チビ、面白いものを見つけたんだ。ちょっと行こうぜ」


「うん?どこに?食べ物?」


「チビん部屋で、食い物じゃねえけどむっちゃヤバい。ヤバすぎる!」


「魔王」


ラスを抱っこして部屋を出ようとしたコハクを呼び止めたカイは、肩を竦めて息をつくと微笑を浮かべた。


「…もうちょっと秘密にしているつもりだったんだが」


「どうせバレるんなら今のタイミングの方がいいだろ。チビの機嫌なんか一気に良くなるぜ」


部屋を出たコハクは、ラスがずっとにまにましているのに気付いて、ラスの頬に頬ずりをした。


「にやにやしてどうした?」


「お母様がね、コーのこと沢山知りたいって言ったの。あのお母様がだよ?私ここに来てほんとに良かった」


「そっか。まあ俺が悪さしてたのはほんとの話だけど、いいとこもあるっていうのをソフィーにアピールしてくれよ。今日は一緒に寝るんだろ?俺はデスと寂しく飲み明かすとするかー」


そしてコハクの脚が向かったのはラスの部屋で、ベッドやドレスなどは前に訪れた時に根こそぎ持ち帰っていたのでもう自分の部屋とは言えなくなっていたのだが――


したり顔のコハクが軽く手で押してドアを開けると…息が詰まったラスは何も言えなくなって、大きな瞳をさらに見開いた。



「コー…これ…赤ちゃんのベッド…?お馬さん…?ガラガラもあるし…え…?」


「カイとソフィーがベビーのために用意したんだ。ここはもうチビの部屋じゃなくってベビーの部屋。な、すげえだろ?」


「うん…うん…!すごい…、可愛い!素敵!」


白くて小さなクローゼットには、男の子でも女の子でも着れるように暖色系のベビー服が沢山用意されており、天井にはシルバーでできた星や月の形の飾りが吊り下げられていて、風が吹くとしゃらんと心地いい音がした。


「コー…どうしよう、すっごく嬉しい…」


「カイとソフィーのためにも可愛くて元気なベビーを生もうな」


コハクの胸に縋り付いたラスはしばらくの間鼻をぐずらせてカイたちに感謝をした。
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