魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
そのヘアピンはデスとコハクのために用意されたものだった。


不器用なりにもラスがヘアピンで前髪やサイドをあちこち留めて、いつもより視界がすっきりしたデスは鏡に映っている自分の顔を覗き込んだ。


「見てコー、デスの綺麗な顔を出してみたの。どお?」


「俺の方が綺麗な顔だし!チビ、俺のもっと留めて!もっと!」


「待って待って」


コハクとデスは異国風の白のチュニックに細身の黒のパンツを合わせて、まるで2人が兄弟のように見えて嬉しくなったラスは2人の周りをちょろちょろと動き回った。

コハクの手によってすでにラスも着替えを済ませており、デスは着慣れない服とヘアピンに戸惑って困り顔になり、それに気付いたラスはコハクの腕に引っ付いて眉を下げた。


「デス…その格好いや?すごく似合ってると思うけど…駄目?」


「…………ううん…大丈夫」


「チビ!俺はこれ好き!…チビ?俺の話聴いてる?」


黙ってじっとデスを見つめていると、安心させようとしたデスは腕を伸ばしてラスの頭をよしよしと撫でた。


「………大丈夫…」


「うん、よかったっ。コーもとっても似合ってるよ。勇者様みたいっ」


「みたいじゃなくって、勇者様なの!チビだけの!」


「………勇者…様…」


ラスがしきりに“勇者様”という言葉を口にするのがとても不思議で気になっていた。


世界に凶事があると現れるという“勇者様”は全世界の女の憧れだ。

コハクは“勇者様”で、しかも“ラスだけの勇者様”だという。


デスはぼんやりした表情でラスを抱っこして甘やかしまくっているコハクを見上げると、ぽつりと呟いた。


「………俺も…なりたい…」


「え?今なにか言った?」


「……ううん」


「さ、行くか!チビは真ん中な。俺たちが転ばないようにエスコートしてやっから」


「うんっ」


ゆるく結い上げた金の髪が美しく、何故かうなじからなかなか視線を外せなかったデスは、薄化粧をしたラスに微笑まれて胸がどきっとして、そんな経験があまりないのでとんとんを胸を叩くとラスと手を繋いだ。


「ね、3人で一緒に踊ろうよ。輪になってぐるぐる踊るの!」


「えー!?チビと2人で踊りたい!でもまあいっか、今日は無礼講だな」


コハクとデスから頬の左右にキスをもらったラスはにこーっと笑って衣裳部屋を出た。


< 539 / 728 >

この作品をシェア

pagetop