魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
…はたから見ると、コハクとデスは明らかにラスの奪い合いをしているように見えていた。


ラスたちを待っていたカイとソフィーは、上機嫌のラスの頭上で一方的に火花を散らしている魔王を見て顔を見合わせると、肩を竦めた。


「私たちのプリンセスは黒いものに縁があるようだ」


「変なのに懐かれてばかりだわ…あなた、やっぱり私心配だわ」


「ふふ、魔王が守ってくれるから大丈夫だよ。さあ、おいでプリンセス」


全身真っ白な騎士風の衣装で統一していたカイを見た途端、ラスの瞳がハート形になったのを見逃さなかったコハクはラスの肩を小さく揺さぶった。


「チビ!あれはオヤジだからな、禁忌は駄目!絶対!」


「お父様…かっこいいっ!お父様っ」


あっという間に手を離れてカイに駆け寄ったラスに地団太を踏んだ魔王は、ぼんやりしているデスのわき腹を思いきりど突くとむしゃくしゃしながら席についてカイを睨みまくった。


「おいカイ、妙なまねしたら殺すからな」


「私の娘を抱っこしているだけだ。ね、ラス」


「うんっ」


「あぁあぁ、もおっ!」


本物の“勇者様”に勝てるわけがなく、ワインをグラスに注がず豪快にラッパ飲みをしたコハクの袖をデスがくいくいと引っ張った。


「なんだよ」


「………魔王を倒した男…」


「ああそうだよ俺が呪ってやった男だ。金の髪の本物の“勇者様”ってわけ。どうせ俺は真っ黒だし!」


いじけてやけになっていると、きゃっきゃと声を上げて笑っていたはずのラスが突然目の前に来ると、コハクの頭を抱いて胸にぎゅうっと押し付けた。


その感触に魔王、頭から湯気。


「!マシュマロちゃん!」


「お父様はお母様のだから返してあげるの。でもコーは私のだからこれからもずっと私のでしょ?すぐ怒っちゃいや」


唇を尖らせて額にちゅっとキスをしてきたラスのその鶴の一声であっさりと機嫌が戻った魔王は、そのままラスを抱っこして膝に乗せるとさりげなくラスの腹を撫でた。


「チビは俺の膝で食うけど問題ねえよな?」


「形式ばる必要はない。ラスがそれでいいならいいとも」


早速食事にありついていたデスからプチトマトを口に入れてもらったラスが幸せそうにしている姿を見たカイとソフィーは、ラスが収まるべき場所に収まったのだとようやく認めることができた。


ラスはコハクの傍に居るのが1番いい。

こんなに笑顔を弾けさせているラスを見れるのならば、ずっと一緒に居るのがいいと願った。
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