魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
30分程かけて落ち着きを取り戻したリロイは、金の髪から水滴を滴らせながらティアラの元に戻った。


「その…許してもらえますか?」


「あ、あの…はい…私こそみっともない姿を見られてしまって…ごめんなさい」


ベッドに腰かけたリロイの手からタオルを奪ったティアラは濡れている髪を拭いてやりながら蚊の鳴くような声で謝罪をしたが、リロイも同じように限りなく小さな声でそれを否定した。


「いえ…とても綺麗でした…」


「!り、リロイ…」


2年前よりも腰が細くなり、胸のサイズもあの時より大きくなったティアラは本当に女性らしい身体つきで、また先程の光景がフラッシュバックしそうになったリロイは慌てて首を振って拳を握りしめた。


「あなたはどんどん綺麗になる。ラスもそうでした。どんどん綺麗になって…あの男に嫁ぐなんて…信じたくありません。僕は…」


「私はずっとあなたのことが好き。でも国と国民のことも想っています。お母様たちだってこの先ずっと健康でいられるかわかりません。私が継ぐしかないんです」


「…その心構えは立派だと思います。だけどあなたの気持ちは?僕のことを好きだと言いながら違う男に嫁ぐその心境は?」


つい責めるような口調になってしまってはっとすると、ティアラは俯きながら膝の上でタオルを握りしめて、何かに耐えるような顔をしていた。


「…矛盾…してますよね。ああ…誰かが私を攫っていってくれたらどんなに嬉しいか…」


かろうじて、“あなたに攫われたい”という言葉を呑み込んだ。


王族への危害や誘拐は死罪に値し、カイたちがどれだけリロイを庇ったとしても免れないだろう。


愛する人を死なせたくない。

だがその消え入るように呟いたティアラの本心はリロイの胸を打って、腕を伸ばして腰を抱くと引き寄せて強く抱きしめた。



「…僕にどうしてほしいですか?」


「…いえ、何も…。こうしていられるだけで私は十分幸せです。あなたに迷惑はかけません。ありがとう、リロイ」


「あなたは…色々我慢しすぎだ。様々なしがらみから解放されたあなたを見てみたいんです。どうすれば見れますか?」


「リロイ…あなたの目の前に居る私こそが、解放されている私です。あなたの傍でなら…私は私でいられる」



――数秒間見つめ合い、どちらからともなくキスをして、舌を絡ませて感情をぶつけた。


時折漏れるティアラの声が愛しくて…


フォーンの存在を恨まずにはいられなかった。
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