魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
思い出話を語るには確執がありすぎた2人だが、かつては命を懸けて戦い合った間柄にしては肩を並べて酒を飲む姿は様になっていた。


「あの時はお前が本気で私と戦おうとしていないことくらいわかっていた」


「まあ俺はね。お前は本気だったけど」


「お前はひとつ国を壊して、ひとつ国を乗っ取ったんだ。私は必ずお前を倒すと決めていた」


「ふん、ホワイトストーン王国は俺たち魔法使いをけなしたし、グリーンストーン王国は…まあいいや、本当のことだからなんとでも言えよ。でもお前を呪ったのだけは正解だったなー。あんな可愛い娘を作ってくれてほんとよかった!」


「私とソフィーだって子供は欲しかった。いちかばちかの賭けだったが…ラスが生まれてきてくれた時は本当に嬉しかったんだ。まさか生まれ落ちた瞬間からお前の声が聴こえるとは思っていなかったが」


優男な顔には似合わずコハクと同じ位のペースで酒を飲んでいるカイの顔色は全く変わらず、コハクとカイの確執をほとんど知らないデスは膝を抱えて興味深げに聴いていた。


笑い声を上げたコハクはテーブルに脚を投げ出して、爪先でカイの膝を小突いた。


「お前を呪って影を潜めて娘が生まれる機会をいつまでも待とうと思ってた。俺が思っていたよりすぐ娘が…チビが生まれてさあ、呪いが発動してチビに移ったってわけよ」


「出産したばかりのソフィーがまた気絶したのはお前が喋ったせいだからな。…俺もものすごく驚いた。まさか本当に呪いをかけられていたなんて…」


カイが自身のことを“俺”と言い、ようやくかつての勇者になる前のカイに戻ると、コハクはそれを懐かしむように瞳を細めてまたカイの膝を小突いた。


「あれからソフィーの前じゃ何年も話さなかったろ?俺だって気を遣ってたのにさあ。…なあ、チビはもう寝たのか?寝顔見に行きたいなー」


「ソフィーが一緒に寝ているから駄目だ。…フィリアに会いに行ったのが目的だろう?何を話した?」


「お前にゃ関係ねえことだし。それよかお前とフィリアは男女の関係にあったんだろ?もう時効だしほんとのこと話せよ」


カイはちらりとコハクに視線を走らせると口角を上げて笑って身を乗り出し、コハクは勢い込んでカイの方に身を乗り出した。



「俺はソフィーと出会った時からソフィー一筋だ。フィリアとは男女の関係になったことはない。…誘惑はされたが」


「マジか!あのボインにオチねえなんてお前男じゃねえよ!据え膳食えよ!」


「お前と一緒にするな。今までどれだけラスを泣かせてきたと思っているんだ?これ以上ラスを泣かせると結婚させないからな」



慌てたコハクは薄ら笑いを浮かべて揉み手をすると、カイがいかに強かったかを語りはじめてカイを笑わせた。
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