魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
カイと一緒にディナーを食べて大興奮のラスは――コハクを困らせまくっていた。


「お願い、お父様と一緒に寝たいの。駄目?じゃあ…コーも一緒に寝る?」


「魔王と一緒なのはさすがに勘弁してほしいな。私は君たちの結婚を渋々許したのだということをお忘れなく」


カイが悲しそうにため息をつくと、思い切りきゅんとしてしまったラスは、コハクの膝から隣に座っているカイの膝へと移動し、胸に顔を埋めて思い切り香りを吸い込んだ。

もちろんその間いらいらしっぱなしの魔王は、説得をしようと口を開いてはまた閉めてを繰り返し、うるうるした瞳で顔を上げたラスに降参ポーズを取った。


「今日だけ!おいカイ、言っとくけどチビにむらむらしたりすんなよ。いくら親子つったってこんなに可愛かったらそりゃ手だって出したくな…」


「じゃあプリンセス、私は少し書類を片付けて来るから後で迎えに行くよ。朝まで抱っこしてあげよう」


「うん、わかった!お父様の抱っこ…抱っこ…!」


「うおい!俺を無視すんな!」


脚をばたばたさせて喜ぶラスとは対照的に胃がきりきり痛んで仕方のないコハクが呼び止めようとしたが、カイはコハクにだけ見えるように口角を上げて不敵に笑い、食卓の間を出て行く。

リロイとティアラは顔を見合わせてコハクをからかい、ラスたちがきゃっきゃとしている間、同席していたフィリアはそっと腰を上げてティアラの後ろを通り過ぎる時、こそっと囁いた。


「少し疲れたから部屋に戻っているわ。後で一緒にお茶をしましょう」


「はい。リロイと一緒に部屋に行きます」


幸せそうな愛娘に瞳を細めたフィリアはそのまま部屋を出て行き――カイの後を追った。


「…いつもそう。カイはいつもずっと先を歩いていて…だから私は出遅れたんだわ。…もう忘れなくてはいけないのに」


カイが宿泊している部屋まで小走りに駆けて行ったフィリアがドアの前で息を整えてノックしようとした時、ドアが勝手に開いた。


「あ…か、カイ…気付いていたの…?」


「来ると思ってたんだ。どうぞ中へ入って」


戸惑いながらも部屋へ入ると、カイは密室にならないようにドアを少しだけ開き、腕を組みながら壁に寄りかかった。


「どの話をしに来たのかな?ラスが生まれた時に1度会いに来てくれただけだったね。昔話でもしたいのかい?」


「カイ…そんな他人行儀な話し方はやめて。私が出会った時のあなたはただの1人の傭兵で…そんなに丁寧な話し方じゃなかったわ」


「…俺には今立場というものがあるんだ。できればフィリア…お前とは2人きりでは会いたくない。ソフィーが誤解するからね」


先に牽制されてしまったフィリアは苦笑を浮かべてソファに腰掛けると、壁に寄りかかったまま動かないカイをじっと見つめた。
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