魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
大好きな父の腕に抱かれて眠る機会は、子供時代は沢山あったが、今ではほとんどなかった。

この前は親子川の字で眠ったが、こうして父だけを独り占めできるのはいつの日ぶりだろうか。


「お父様…いい匂い……」


「君の方がいい匂いがするよ。またお腹が大きくなったね、秋には生まれるんだったっけ?」


「う、ん…。ここで生む、の…。ベビー…男の子だったら…コーに似て…かっこいいと…いいな…」


もう陽が昇ろうとしていたのだが、質問にむにゃむにゃ言いながら答えるラスに瞳を細めたカイが額にキスをした時、荒々しくドアが開き、荒々しく足音が響いたので、それが誰であるかすぐにわかったカイがラスを離そうとしたのだが――


「やっ。お父様、まだ一緒に居てっ」


「チビ!俺が代わりに隣で寝てやるし!おいカイ、そこどけよ。もう十分チビを堪能しただろ?おかげで俺は一睡もできな…」


「コーだ…。じゃあ3人で寝よ…」


「それは断固として断らせてもらうよ。せっかくここまで来たんだから、魔王が作った街でも散歩して来よう」


「!お父様っ、私も一緒に行くっ」


突然覚醒したラスががばっと起き上がった時、ドアが弱々しく開き、“仕事”に出ていたデスがフードを目深に被ったままふらふら入ってきた。

表情は見えなかったが、何故か明らかに意気消沈している気がして、コハクもラスもデスを弟のように思っているので心配になり、2人してデスに駆け寄る。


「デス?どうしたの?おはよう、元気ないね。お腹空いたの?」


「……ううん…」


「熱でもあんのか?お前いつも以上に暗いぜ?寝てねえのか?ちょっと寝とけよ、出発する時起こすからさ」


カイが密やかに笑いながら部屋を出て行き、デスがラスの手をぎゅうっと握ったまま立ち尽くす。

一瞬コハクが眉を潜めたが、デスの頭をぽんぽんと叩くと、ラスに目配せをして踵を返し、ぷらぷらした足取りでドアに向かった。


「俺、カイと小僧たちをからかってくるー。チビ、後でそいつと一緒に来いよ」


「うん、わかった。デス、こっちにおいで。寒いの?身体擦ってあげる」


――デスの手を引っ張ってソファに座らせたと同時に、突然デスから抱きしめられた。

突然のことで驚いたが…きっと悲しいことが起きたのだと悟ったラスは、そのまま動かずに何度もデスの背中を撫でて、じっとしていた。
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