魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
リロイたちが城門の前にゆっくり姿を見せると、また歓声が爆発した。

人々は時々姿を見せてラスを抱っこして街中を歩くコハクの姿を見て何者なのかと噂していたが、結局正体を見破れず、ラスの婚約者なのだからきっととてもいい家柄の者なのだろうと勝手に思い込んでいた。

またラスとしても、コハクがかつて“魔王”と呼ばれて恐れられていたことを公にするつもりもなければ、それはリロイたちも同じ。

しかもグリーンリバーの領主であると知り、街を資金的な面においても支援してくれて、リロイたちも信頼しているように見える。

それに…ゴールドストーン王国の王であるカイとレッドストーン王女の女王であるフィリアが駆けつけたこともあり、人々はこの新しい街に新しい未来を見た。


「みんな…ありがとう」


またもや自分の声が皆に聴こえる大きさになっていることに気付いたリロイが城の屋上を見上げると、手すりにもたれかかって見下ろしていたコハクが小さく手を挙げた。

もちろんその隣にはラスが居て、大きく手を振ってきたのでリロイも振り返すと、人々もラスたちに手を振る。


リロイは緊張で脚が震えてしまいそうになりながらも、隣に立っていたティアラに袖をきゅっと握られて、優しい瞳で見下ろした。


「リロイ、頑張って下さい。あなたが皆を導くのですから」


「ティアラ…はい、頑張ります。…皆さん、改めてはじめまして――…」


空中庭園から少しだけリロイのスピーチを聴いていたラスは、腹を丸出しにしてごろ寝していたケルベロスのふかふかの真っ黒な腹に抱き着きながら、お尻をむずむずと動かした。

リロイとティアラも幸せになったし、カイが結婚を認めてくれたし、後はお互いに結婚式を挙げるのみ。

出産という大仕事が待っているが、それはもう不安ではないし、苦でもない。


だがひとつだけ気がかりが…


「ねえコー、デスとグラースはどうなるのかなあ?」


「どうにもなんねえだろ。デスにはグラースが眼中に入ってねえし、グラースはデスに本気じゃなくてからかってるだけだと思うなー」


「ふうん?そっか…グラースとデスにも幸せになってほしいんだけど…」


「そりゃ我儘ってもんだぜ。気長に待ってればきっと勇者様やお姫様が現れるだろ。俺とチビみたいに!」


「きゃあーっ、コー、すっごく高いっ」


頭上まで持ち上げられて鳥の気分になったラスが歓声を上げながら両腕を広げて喜んでいる姿を、両膝を抱えてベンチに座って見ていたデスは、じんわり広がるあたたかい波に身を任せてふわふわしていた。

絶対に絶対に、幸せになってもらおう、と誓っていた。
< 608 / 728 >

この作品をシェア

pagetop