魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
デスの手は肉が全くついていなくて剥き出しの骨の状態なので、デスの正体を隠すために白い手袋を嵌めてやったラスは、出迎えてくれた緋色の騎士団たちに笑顔を向けてコハクの手を握った。


「ティアラに会えると思う?敷地内の大聖堂で式を挙げるんでしょ?」


「そうだと思うけど、とりあえず座れって。お邪魔しまーす」


コハクはラスを抱っこして緋色の騎士団に先導されながら玉座の間へと移動した。

城内も慌ただしく、だが皆の顔には誇らしさと嬉しさと寂しさが入り混じった不思議な表情をしていて、違う王国へ送り出さなければいけないことを悲しんでもいた。

きっとゴールドストーン王国の国民たちもそうだろう。

ラスは人目につかないように城に閉じこめて暮らしていたが、住民たちは城に勤めている者たちからラスの愛らしさやじゃじゃ馬っぷりを聴き出して、話のネタにしていたものだ。

そんなラスをどこの馬の骨かかわからない男に掻っ攫われるのだから、腸が煮えくり返りそうな思いだろうが…コハクもそれ位の覚悟はしている。


「あ、ティアラ!結婚式に参加しに来たよっ」


「ラス、ありがとう!2日間連続で結婚式なんて…私って贅沢よね」


「そうだよ、一生に1度しか結婚式って挙げられないんだから、ティアラは幸せ者だよっ」


正式にリロイと婚姻を交わして人妻になったティアラの薬指には、マリッジリングが輝いていた。

ラスはちらちらとそのリングに目を遣っては自身の薬指に嵌まっているガーネットのリングを見下ろして、にまにましてしまった。


「ちゃんと俺がマリッジリング用意するし。こんな地味なやつじゃなくてチビに似合うのを…」


「ううん、これでいいの。これ外したくないし、私はもう王女じゃなくなるんだから、贅沢は駄目。ねえ、リロイはどこ?ちょっとデスとお城の中見て来るね」


今度はデスと手を繋いだラスが勝手に離れて行ってしまうと、ティアラは深いため息をついたコハクに忍び笑いを漏らしてからかった。


「あなたと結婚してもラスはきっと変わらないでしょうね。あの死神…ラスのことを本当に愛してるんじゃないのかしら?」


「はあ?デスに限ってそれはねえだろ。そりゃチビのことをすっげえ気に入ってるのはわかるけど。気にし過ぎだっつーの。それより人妻の気分はどうだ?俺が浮気相手になってやろうか?」


「笑えない冗談言わないで。ナイフでちょん切ってやるわよ」


意外と天然なコハクは、デスの想いに全く気付いていなかった。
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