魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
普段のラスはひとつの場所にじっとしているタイプではない。

だが、城内の散策から帰ってきたラスは、リロイたちが敷地内の教会に移動するまでの間、ソファに座ってずっとじっとしていた。

…もちろん脚がぷらぷらしていたり、身体がそわそわしていたりしているのだが…

コハクはそんなラスの前に立って腕組みをして、いつもと様子の違うラスを楽しんでいた。


「チビ…どした?いつもと違うし。ま、じっとしてくれてる方が助かるんだけどさ」


「だって…たくさん動くと疲れちゃうし、コーにパーティーに参加するのを止められちゃうからじっとしてるの。偉いでしょ?」


「ん、偉い偉い!参加つっても夜通しは駄目だからな。今夜は一泊して、明日はグリーンリバーに戻って医者に診察してもらって…」


定期的にラスの体調を医者に診てもらっていたのだが、今のところ順調にきている。

マンドラゴラやベルルの腹帯など、周りにはラスを心配する人々で溢れているのは、ラスの人柄故だろう。

小さな頃から本当に目が離せない王女を2年もの間傍に居て見守れなかったことが未だに悔しいコハクは、移動のためにティアラを伴って客室に入ってきたリロイの腹を思いきり拳で殴った。


「うぅ…っ!?か、影…なにを…」


「お前のせいで俺は2年もチビの傍に居られなかったんだからな。…思い出すと腹が立ってきた!」


「コー…」


16年べったり傍に居た後は丸々2年傍に居なかった日々――

あの時リロイに刺されなければ…もっともっとラスを幸せにしてやれたはずなのに。


「…本当にすまないと思ってる。魔法剣に操られていたとは言え…あの時の僕は正気じゃなかった。あの時お前を刺さなければ…ラスは抜け殻みたいにならずに済んだんだ」


「全くその通り。まあ…俺も完全に油断してたし、お前だけのせいじゃねえ。だけどな…チビがあちこち成長してもっと可愛くて美人になった過程を俺は見たかった!ちっきしょ、お前とボインがよぼよぼになって死ぬまでいじめ抜いてやるからな!」


リロイの首を絞めて揺さぶっていたコハクの細い腰に抱き着いたラスは、鼻をぐずらせながら首を振ってなんとか笑顔を作った。


「でもコーは死んでないって思ってたから。…リロイを苦しめてたのは私なの。ごめんねリロイ…2年も冷たい態度を取ってごめんね。ティアラに幸せにしてもらってね。ティアラを幸せにしてね?」


リロイの瞳が潤み、コハクの背中に腕を回して強くハグをした。

コハクは仕方なく、わざと重たいため息をついてリロイの背中をぽんぽんと叩いた。
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