魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラのウェディングドレス姿は昨日に続き2度目だったが、急なこととはいえ、堂々と様になっている姿は美しく、凛とした表情でバージンロードを歩く。

オーフェンはティアラと腕を組んで真っ白な道を歩きながらもすでに涙ぐんでいたが、バージンロードの伸びる先にやわらかな笑みを湛えたリロイが待ち受けているのを見て、娘の手を離したくなくて、余計に涙ぐんだ。


「コー…オーフェン様が泣きそう。お父様も泣いてくれるかなあ」


「そりゃ泣くだろ、こんな可愛い娘を嫁に出さなきゃいけねんだからさ。でもまあ悲しむ必要ないぜ。俺がいつでも連れ帰ってやるからさ」


「うん、ありがとうコー。ねえコー…その恰好、素敵。髪も伸びたね、帰ったら少し切ってあげるね」


髪を一つに括ったコハクの頬を撫でたラスは、赤い瞳に吸い込まれそうになって我に返ると、隣まで来ていたティアラを見上げた。

ティアラの頭上にはラスが一生懸命作った花冠が乗せられていて、ラスはそれをとても喜んで笑顔全開になり、司祭が読み上げる宣誓を一言一句聞き逃さずに息を潜めてコハクに笑われた。


「真剣すぎだろチビ。それよかほんとに腹は痛くないんだよな?大丈夫だな?」


「うん、大丈夫。もうコー、うるさいっ。ちょっと黙っててっ」


邪見にされて逆に萌えたヘンタイ魔王がラスの肩を抱いて抱き寄せた時、すでにマリッジリングを嵌めていたティアラの薬指に新たなリングが加わった。

赤よりも血の色のような燃え上がる色のレッドストーンを小さくカットしてプラチナの台座につけられたリング――それはフィリアが前国王から譲られたものであり、本来ならばレッドストーン王国を継ぐものが身に着けるものとされている。

ティアラが驚いて目を見開いてフィリアを振り返ると、フィリアは瞳だけで“いいのよ”と合図を送り、ティアラの瞳を潤ませた。

…レッドストーン王国とクリスタルパレス王国は、かなりの距離がある。

コハクの力を借りない限りは行き来は難しく、もしかしたら、これが最期の別れになるかもしれない。


このリングを譲られた意味を悟ったティアラの唇から嗚咽が漏れた時、リロイがふわりと小さな身体を抱きしめて両手でティアラの頬を包み込んで顔を上げさせた。


「泣いちゃ駄目だって式の前に約束したはず。忘れた?」


「いいえ…でも嬉しくて悲しくて…でももう平気。リロイ…」


ティアラが顔を上げた。

誓いのキスを交わした2人は、割れるような大きな拍手に包まれて、愛を誓い合った。
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