魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ゴールドストーン王国の一人娘であり、まだ未婚なはずのラスの腹が大きいことにまた皆は驚いていたが…とてもではないがラスに近付いてそのことを聞ける雰囲気ではない。

何故ならば、服装は礼装ながらも真っ黒な2人組がラスを守護するようにしてぴったり傍に居るからだ。

結局遠巻きに皆から見つめられていたのだが、悪目立ちしていたために戻ってきたカイとソフィーからすぐに発見されると、笑われた。


「またおかしなことになっているね。プリンセス、今夜はパーティーだよ。そのお腹だと動き回るのはやめておいた方がいいから、リロイたちから後でここに来てもらおうね」


カイたちを警護している白騎士団がパーティーの参加者たちを外に出し、ようやく身内だけになれたラスがほっと息をついたのをコハクは見逃さなかった。

口には出さないが、やはり疲れていることは間違いなく、ついそれが表情に出てしまったのか、ラスが慌てて首を振って腕にすがりついてきた。


「コー、違うの。人がいっぱい居てすごいなあ、って思ってただけで…疲れたんじゃないからっ」


「よくよく考えるとさあ、チビの腹ん中にもう1人人間が入ってるわけだから、しんどいはずだろ?この部屋から出ないって約束するんなら、なんとか我慢してやるよ」


「ありがとう。お父様とお母様はパーティーに戻っていいよ、私ここに居るからまた会いに来てね」


「美味しいものを持ってきてあげよう。魔王と死神はラスから離れないように」


「うるせえな、わかってるっつーの。ほら早く行けよ。お前が後ろ盾になってることをちゃんとアピールして来いよな」


…なんだかんだ言いつつも国王となるリロイを案じている風のコハクに笑みを誘われたカイがソフィーを伴って部屋を出て行く。

今居る客間にはベッドやバスルームなども完備されているので不自由はないが、部屋の外で楽しげな声が上がっているので、ラスのお尻はずっとむずむずしていた。


「ここから出て行くとカイから怒られるし、また疲れるだけだぞ。ベビーのことが大切ならここに居てくれよ」


「うん、わかった。じゃあ私、続きを編もうかな?」


「編むって何を?」


ラスがソファに置いていた白いショルダーバッグの中から、なんだかよくわからない白くて手のひらサイズのものを出した。

コハクとデスはそれが何だかわからずにきょとんとしていると、ラスの唇が尖った。


「ベビーの靴下なの。…靴下に見えないのはわかってるけど、靴下なのっ」


参加したがりのコハクの赤い瞳がぴかっと光り、編み物セットをラスの手から奪い取った。
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