魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
真っ白な毛糸玉と靴下の図面を手にじっくり熟読していたコハクは、5分後顔を上げて、ちゃかちゃかと器用にかぎ針を動かしてラスの瞳を真ん丸にさせた。


「コー…編んだことあるのっ?」


「あるわけねえだろ、図面見りゃ大体わかるし。チビはさあ、不器用なのになんでこういうのにチャレンジしたがるんだ?花冠にしても、金色の花であればそれでいいんだろ?」


「違うよ、コーの馬鹿っ。ブーケと花冠だけは絶対に自分で作りたいのっ。普通は失敗するものだし、私だって時間をかければ上手になるんだから。もうコーには料理作ってあげない」


完全に膨れてしまったラスが隣を離れてベッドに移動してしまうと、慌てたコハクはかぎ針をデスの手に押し付けてつんと顔を逸らしているラスの腰に腕を回した。

そうだった…ラスは2年前までは手料理など作ったことがなかったのに、2年経った今は普通に美味しいと思える料理を作ってくれる。

それが食べれなくなると思うと必死の形相になったコハクは、何度もラスの頬にキスをして言い訳をつらつらと重ね始めた。


「ごめんって、俺が悪かった。そりゃ花冠やブーケを自分で作った方が思い出になるもんな。チビの一生懸命な気持ちを馬鹿にしたわけじゃねえんだ、ごめん。俺さ、時々口が悪くなるから…傷つけたよな?もう絶対言わねえから。花冠もブーケも壊れないように魔法かけてやるから。な、チビ…こっち向けって」


唯一コハクを夢中にさせる存在のラスは、コハクが器用で頭も良い男であることは重々わかっているが、さっきの靴下だってあそこまで完成するのに1週間は費やしている。

なのにコハクは図面を見ただけで、ものの数分で同じところまで進んでしまったのだから、悔しい気持ちは隠せない。

ベビーが生まれれば本当にコハクがすべての育児を担ってしまいそうで、改めて頑張らなければという思いになったラスは、コハクの肩にしなだれかかって息をついた。


「私こそいじけちゃってごめんね。私、コーの迷惑にならないように色々頑張るから」


「チビは頑張らなくっていいの。自立反対!絶対!……あっ、デス!お前何やってんだよ!せっかくそこまで編んだのにめちゃくちゃにしやがって!」


コハクから押し付けられた編みかけの靴下は、デスが見よう見まねで編んだ結果、ぐちゃぐちゃになってしまっていた。

振り出しに戻ったラスはそれを喜び、また2人の間に挟まってリロイたちが来るまでコハクに講義してもらいながら靴下を編んだ。
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