魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
編み物と格闘している間にリロイとティアラが夜更け頃ようやく顔を出しに来た。

ラスはいつものように駆け寄って抱き着こうとしたのだが――なんだか2人が醸し出している雰囲気に脚が止まり、伸ばしていた手が自然に下がる。

…ラスが何を考えているのかすぐにわかったコハクは、ラスを後ろから抱きしめて真上から顔を覗き込んだ。


「なーに遠慮してんだよ。小僧たちに近寄り難くなったんだろ」


「!どうしてわかるの?…だってコー…私は王女じゃなくなるし…リロイとティアラは国王と王妃様になったんだし…こんな風に気さくに話しかけちゃ駄目なんじゃないかな」


しゅんとなって俯いたラスから距離を作られてしまったリロイとティアラは顔を見合わせて、それを悲しんだ。

ラスだけは自分たちがどんな運命を辿ろうとも応援してくれると思っていたし、今まで実際そうだったが――

リロイからしたら立場が逆転して、ラスより目上の立場になってしまう。

それでも変わらずに接してくれると思っていたので、ティアラにひそりと何かを囁いたリロイは、コハクにも目配せをしてサインを送ると、胸の前で祈るように両手を組み合わせているラスの手をそっと握った。


「ラス…僕たちは何も変わってないよ。それにそこの影から無理矢理国を押し付けられたようなものだし、君との距離も何も変わってない。それとも…ラスが僕たちから距離を作って離れたがってるの?」


「ちが…違うよリロイ。リロイたちがちょっと違う雰囲気だから…なんて説明すればいいのかわからないけど…」


「わかるわかる。こいつらしばらく国政とか評議会作ったりで忙しいだろうから、俺たちの方が会いに来てやるよ。あ、チビがベビーを生んだ後になるけどな」


ラスの顔にみるみる笑顔が広がり、コハクからラスを奪い取ったリロイは、昔よくしていたようにラスを抱っこしてまた笑顔をはじけさせた。

さっきティアラに囁いたのは、ティアラ以外の女の子に触ってもいいかという許可を貰ったからだ。

これからは常に人目がある状態になるので、こうしてラスに触ることもなくなるだろう。


日常的にやっていたことができなくなる悲しさや寂しさはあるけれど、ラスにだけは…変わってほしくない。


コハクはラスを抱きしめているリロイに文句を言いたいのをぐっと堪えて、腹いせにデスの脇腹を殴りまくっていた。
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