魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
リロイたちも人目がなくなって落ち着いたのか、首をぽきぽき鳴らしながら一緒にソファに座ってグラスを手に乾杯をした。

このうち、カイとフィリアとオーフェンは魔王コハクを倒した勇者。

そして彼らに1度は倒されたコハクは、完全なる無防備状態で、ラスを膝に乾杯の音頭を取った。


「俺のライバルもこれで居なくなったわけだし、グリーンリバーとクリスタルパレス王国とは隣同士って言ってもいい間柄になる。小僧たちが失敗なんかしねえように俺が見張っといてやっからお前たちは心配するなよな。かんぱーい」


ラスはアルコールを摂取できないので熱いアップルティーを手に乾杯に加わり、遅れて到着したグラースが窓際からそれに参加した。

部屋の外ではリロイたちを捜す声が聞こえていたが、先ほどスピーチも終えたし、時間が経てば自然に解散するだろう。

それよりも今は、ラスたちと一緒に居る時間の方を選びたい。


「魔王と乾杯するのは不思議な気分だ。あの時確実にカイがとどめを刺したと思ったのに、しぶといものだな」


「だからー、呪いをかけるって言っただろが。いい暇つぶしになったし、チビと出会えたし。俺があの時カイに呪いをかけなけりゃ…本気でこの世界をぶっ壊してたかもしんねえぜ」


「笑えない冗談を言うな。お前のせいで私たちはラスを城から出すことができなかったんだ。…苦労をかけた」


「私は苦労なんかしてないよ、お父様。リロイが居たし、コーもずっと一緒に居てくれたから平気だったよ」


にこにこしているラスは、話している間ずっと腹に両手を添えていて、時々ぴくっと手が痙攣したように動く。

その理由をラスに聞いてみると、最近胎内でベビーが動き回っているのだそうだ。

コハクは膝に2人分の重みを感じながら、なおも十数年前の不満を口に責め立ててくるオーフェンたちを無視してちらりとソフィーに視線を遣った。

カイの隣に座っていたソフィーは、未だにほとんど視線を合わせてくれない。

時が経てばいつか和解できるだろうかと考えることもあったコハクだったが…未だに赦されていないことを感じていた。


「お母様」


「…魔王」


「!な、なんだよ」


「…私はまだあなたを完全に認めていないけれど…いつかは分かり合える時が来ると思うわ。それまでは…私の態度を許して」


ラスによく似た雰囲気のソフィーがはにかみながら顔を上げた。

コハクは心から笑みが沸き上り、ソフィーを促したラスに感謝して豪快に酒を呷った。
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