魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
翌朝パンケーキの良い香りで目覚めたラスは、隣で眠っているコハクの胸に頬ずりをして、大あくびをした。

ラスは国賓で、先日カイからコハクがグリーンリバーを治めている領主であることが明かされていたため、コハクもまた国賓扱いとなっている。

それにラスは唯一のティアラの親友でもあるので、レッドストーン王国に使える者たちは皆ラスを歓迎して、部屋まで朝食を運んでくれていた。


「わあ、美味しそう…。コー、ホットケーキの上にアイスとブルーベリーのジャムが乗ってるっ。食べてもいい?」


「んんー…もうちょっとここに居ろって…」


上半身裸でまだ寝ぼけ半分のコハクの表情は色っぽく、起き上がろうとするラスを抱き寄せては唇にキスをして、朝食を運んできた若い女のメイドの顔が真っ赤になると、ぼんやりしているコハクと目が合ってしまって腰砕けになった。


「コー、動けないから手を離してっ。私パンケーキ食べるから。コーの分無くなっちゃったらごめんね」


色気むんむんのコハクにも全く動じないラスは、早速テーブルにつくと、まだ湯気を立てている紅茶を一口飲んだ後、ほうっと息をついた。

相変わらずベビーはぽこぽことお腹を蹴ってくるし、出産が近いことを知らせてくれる。

ベルルがくれた腹帯もしっかり巻いているし、パンケーキの上に乗っていたイチゴをベルルが腕に抱えてつまみ食いしていると、ようやくのそりとコハクが起きてきた。


「チビ、今日は医者が来るから早く帰るぞ。…なんだお前。そんなとこ座ってどうした?」


まだ立てずにまごついていたメイドがコハクから声をかけられてさらに顔を真っ赤にさせると、這うようにして部屋から出て行き、コハクとラスの首が傾いた。


「コハク様ったら…ラス以外の女に色目を使うとあたしが黙っちゃいませんからね」


「ふざけんなよベルル。いつ俺がチビ以外の女に色目を使ったっていうんだよ。ああ?」


ラスに誤解されそうなことを口走ったベルルを捕まえようと飛んで逃げ回るベルルを目で追いかけて掴もうとした時、リロイとティアラが部屋を訪ねてきた。

ティアラは不器用なラスのために、靴下が簡単に編める図面を考えて作ってきていた。


誰もがラスの笑顔を見ることを望んでいる。

リロイとティアラもまた、どんなに忙しくなろうとも、ラスの出産には立ち会うつもりでいた。
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