魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その後真剣な顔をして靴下を編んでいたラスは、ティアラが苦心して作ってくれた図面のおかげで手つきはたどたどしいながらも格段に上達していた。

夢中になっていると流れる時間も速く、結局昼頃まで滞在してしまい、外から聞こえるドラちゃんの鳴き声でようやくラスが顔を上げた。


「すげえ綺麗にできてるじゃん。じゃあ続きは戻ってからやろうぜ。今日は検診!じゃあ戻るぞー」


リロイとティアラも彼らを待つクリスタルパレス王国の国民たちの元へ帰るために、一緒に螺旋階段を下りて外へと出た。

まだ興奮冷めやらずのレッドストーン王国の国民たちは、とうとうティアラが居なくなってしまうことを悲しみ、柵の外に大勢が集まって別れを惜しむ声を上げている。

ティアラは感激で胸に詰まりながらも、リロイと一緒に手を振って地面に顎をつけて待機していたドラちゃんの前に立った。


『俺はベイビィちゃんを乗せたい』


「ベビーを生んだらたくさん乗ってあげるね」


ラスに鼻先をくすぐられてうっとりとなったドラちゃんの尻尾を思い切り踏んづけたやきもち魔王は、ティアラをエスコートして鞍に座らせたリロイに笑いかけた。


「途中までは一緒だけど、上空で解散しようぜ。チビが産気づいたらちゃんとドラを使いに出して知らせるから心配すんな」


「影…ラスを不安にさせたり泣かせたり絶対するな。僕はティアラを奥さんに迎えたけど、今でもラスの幸せを誰よりも願っているんだ。だから…悩ませるようなことは絶対にするな」


「お前こそボインに飽きてチビに手ぇ出したりしたらぶっ殺すからな。これは冗談じゃねえぞ、覚えとけ」


不敵な笑みを浮かべて馬車に乗り込んだコハクは、まだ毛糸玉と格闘しているラスの肩を抱いて窓を開けた。

ラスが顔を上げると、ドラちゃんに乗り込んだリロイたちが何か叫んでいるようだったが、人々の歓声にかき消されて聞こえない。

だがこれは別れの言葉じゃないし、リロイたちにはいつだって会いに行けるので、ラスが手を振るとリロイたちも笑顔で振り返してくれて、ドラちゃんが翼を大きくはためかせて強風を生んだ。

そして馬車も上空を走り、魔法を見た人々は口々に歓声を上げてラスたちに手を振った。

コハクはラスの隣に座っていたデスを押しのけてラスを膝に乗せると、ぽこぽこと動く腹に手を添えて、命を慈しんだ。
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