魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
それからというものの、腰を上げるにしてもなかなか立つことができないでいたラスは、何日もの間グリーンリバーの城に籠りきりになった。

だが動かずにいるとそれはそれで良くはないと妊婦のマニュアル本を熟読して知っていたコハクは、ラスの手を引っ張って外を促した。


「チビ、外に出て散歩しようぜ。疲れたら俺が抱っこしてやるから。桟橋の前のベンチに座ってアイスはどうだ」


「アイス!コー、迷惑かけてごめんね。お腹が重たくてあまり動きたくないの。ベビー…ちゃんと出てこれるかな」


さすがに“どこから?”とは聞かなくても知っていたコハクは、ラスを立たせて大きな腹を撫で回して手を引っ張って部屋の外へと出た。

グリーンリバーは年中春なので、観光客が絶えることがない。

そしてラスの婚約が発表されてから、各地からこの街に興味を示した人々が観光に訪れているという報告が上がってきている。

改造済みの、お揃いの白いエプロンをつけた魔物たちは、せっせと花を植えたり土を耕したりして何気なく城のを守るようにして周囲に展開しているが、そんな魔物の姿を見たいという者も多く、グリーンリバーはコハクの意思とは裏腹に、栄えるばかりだ。


「この前さあ、カイが“グリーンリバーを王国の加盟に。そこにグリーンストーンがあることは知っている”って手紙を寄越してきたんだけど。これって半分脅迫文じゃね?」


「お父様が?でも…コーが王様になっちゃったら自由がなくなっちゃうよ?お父様はいっつも政務や執務に追われて私と遊んでくれなかったの。そうなったら…私やベビーを構ってくれなくなっちゃうでしょ?」


「んなこと絶対ねえよ。でも王になるのはいやだ!俺は気楽にチビとここで暮らしていくのが夢なんだ。小僧とボインの物語は終わったし…次は俺とチビの物語を再開だな。ベビーが生まれて少し大きくなったら、あちこち旅行しようぜ。どこでも連れてってやるよ」


コハクとラスが街に出て橋沿いを散歩していると、すでに面が割れている2人を見つけた住人たちが婚約を祝って拍手してくれたり声をかけたりしてくれた。

ラスはいちいち手を振ったり笑顔を向けたりで忙しく、拗ねたコハクはラスをベンチに座らせて片時も目を離さないようにしながらも、イチゴ味とチョコ味のソフトクリームを買ってベンチに戻り、ラスにイチゴ味のソフトクリームを手渡す。

世界一美しい街だという自負がある。

ラスに喜んでもらうために、もっともっと美しい街にして、発展させようと思ったコハクは、ラスの肩を抱いて陽光を反射させる川の景色に見入った。
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