魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスたちが出かけている間、デスは日傘を差して城内の庭園に出てケルベロスの鼻先を撫でてやっていた。

もうどのくらい魔界に戻っていないだろうか。

ケルベロスは召喚されていない間は魔界に居るので行き来しているが、自分はもうこの世界に住んでいると言ってもいい。

…死神がこんな明るい世界に居てもいいのだろうか?

ここに居て…得るものがあるのだろうか?


「………神の考えてること……わからない…」


「お前は創造神に会ったことがあるのか?」


ゆっくり振り向いたデスの視界に、外回りから戻ってきたグラースが映った。

元々からして苦手だったので、無意識に1歩下がったデスの様子を見たグラースは、自虐心をくすぐられたのか――1歩前進してデスの隣に立つと、コハクとラス以外見向きもしないケルベロスの耳に手を伸ばして大きな口を開けて威嚇された。


「………ある。……あまり近付かないで…」


「男なのか女なのか、どちらだ?どんなだった?ラスたちはこのことを知っているのか?」


「………男…だった…。………ラスたちは……知らない」


目だけ動かして横のグラースを観察したデスは、ラスと同じさらさらの金の髪を耳にかけて興味深げに眉を上げているグラースと目が合い、ふいっと顔を逸らした。

…何故苦手なのかはわからないが、なんとなく食われそうな目で見られている気がするので、また1歩グラースから遠ざかると、膝を抱えて座った。


「ラスは順調なんだろうな。死神のお前なら知っているはずだ。ラスは大丈夫なのか?」


「……ちゃんと…生まれてくる。……俺が…助けた」


少し誇らしげな横顔は、ラスを本当に愛しく思っているように見える。

デスに興味津々なグラースにとっては不利な状況なのだが、それをまるで気にせずに、身を翻して手を振った。


「なら、いい。お前こそ魔王とラスの間にひびを入れるようなことをするな。その時は私がお前を襲ってやるからな」


「………いやだ…」


“襲われる”の意味はいまいちわからなかったが、とりあえず乱暴なことをされそうな気がしたのでそれを拒絶したデスが腰を上げた時、ラスを抱っこしたコハクが戻ってきた。

ラスの両手には2つのたべかけのソフトクリームがあり、デスを見つけるなりラスがそれを差し出す。


「ちょっと食べちゃったけどお土産だよ。一緒食べよ」


「………うん」


死神の目元がやわらかく緩む。

穏やかな気分に浸りながら、コハクとラスに歩み寄った。
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