魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
2日に1通のペースでカイやティアラたちからラス宛てに手紙が送られていた。

それはもうほとんど動けなくなったラスにとっての最大の楽しみにもなっていて、大きな腹を抱えてバルコニーに出て、紅茶を飲みながら手紙を読んだ後、うんうんうなりながら返事を書いている時間をとても大切にしていた。

コハクはたいていラスの傍に居たが、グリーンリバーを治めている者でもあり、何かトラブルが発生したり新たなる事業を興せばずっとべったり傍に居られるわけではない。

そういう時はデスかグラースがラスの傍に居て、あともう少しで生まれてくる子供とラスを見守っていた。


「リロイたちは元気にしてるみたい。毎日会ってたのに会えなくなるのはちょっと寂しいね」


「そうか?だが今後は否応なしにそうなる。数十年後は私とも会えなくなる」


不死の魔法をかけられれば、死という概念は遠いものとなる。

コハクやデス、そしてオーディンがローズマリーは例外だが…人とは老いて肉体が滅び、死にゆく生き物。

リロイやティアラやグラースはその理に従って…いずれ死んでしまうのだ。


「…寂しい。コーはずっと一緒に居てくれるけど…いつかみんなと会えなくなるんだよね…」


「魔王がきっとそんな寂しさを感じない位に幸せにしてくれるはずだ。私はそう願っているし、そう思っている」


こんな姉が欲しかった、という理想のお姉さま像をグラースに抱いているラスは、同じ金の髪と緑の瞳に顔立ちは全く違うがいつも大切にしてくれるグラースの腕に抱き着いた。

…コハクだけが居てくれればいい、と思っていたが…彼らだけが老いていき、自分だけが若々しいままというのはやはりとんでもない違和感がある。

それが表情に出てしまったのか、少し唇を噛み締めたラスの頭を撫でたグラースは、肩を竦めながらラスの飲んでいる紅茶を奪ってウインクしてみせた。


「私は生涯独身でいるつもりだし、ずっとここに住むつもりだ。お前たちが留守にする時はこの街を守ってやるから、私が老いた暁には介護をつけてもらうからな」


「ふふっ、うん、私が身の回りのお世話をしてあげる。グラースにはとってもお世話になったから」


1秒1分でも早くラスの元に戻るために急ぎ足で戻ってきたコハクを見たグラースは、書いていた手紙の端にいたずら書きをしてラスを笑わせながら、平和な日常を楽しんでいた。
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