魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
出産を1ヶ月後に控えたある朝――


ちくん。ちくちく。


気持ちよく寝ていた時になんとなく腹に違和感を感じたラスは、それが小さな痛みだったことに気付いてむくりと起き上がった。

目を擦りながら腹を見下ろしたが…それ以降何の変化もない。

その違和感が本当に痛みだったのか、寝ぼけ半分だったのでよくわからず、コハクにそれを報告してしまえばものすごく心配されてしまうので、黙っていることにした。


「んーー……チビ…?何してんだよ…まだ夜明け前だろ…?」


「うん、そうなんだけど…お手洗い行って来るね」


コハクの頭にキスをしてベッドから降りると、トイレに行って用を足してみたが――あの時多分感じた痛みは全くなく、出血もしていない。

もしかして夢だったのだろうか、そうに違いないと自己完結したラスはまたベッドに戻ると、コハクの腕に顔を擦りつけた。


「チビ…お前なんか顔色悪いぞ?大丈夫か?」


「そう?なんともないよ、元気いっぱいだよ?コー、まだ早いからもうちょっと寝てよ」


うっすらと赤い瞳が見えるコハクの胸にすり寄って頬ずりをすると、ぎゅうっと抱きしめてくれたので、そのままごろごろ甘えて腹を撫でてもらう。

ベビーが胎内で動きまくるので最近なかなか寝付けなかったのだが、あと1か月の辛抱だ。

10か月以上もこうして重たい腹を抱えていることが感慨深くなり、それからまたうとうとして眠ってしまうと、コハクの声で目が覚めた。


「チビ、俺ちょっと書斎で書類の片付けしてくるからじっとしてろよ。動き回らないこと!わかったな?」


「うん、わかった。コー、お腹空いちゃった」


「んじゃデスと先に食ってていいぜ。昼はチビが作るパンケーキ食いたいなー」


「うん、いいよ。じゃあ今日はアイスクリーム挟んであげる。コー、お仕事頑張ってね」


笑顔で手を振って送り出すと、入れ替わりにデスが部屋へ入ってくるなり――表情を曇らせた。

棒立ちになったデスの様子がおかしかったので、ソファに座っていたラスが首を傾げると、デスはゆっくりとラスに歩み寄って目の前で片膝をつく。


「デス…どうしたの?」


「………早い…」


意味が分からずにきょとんとしたラスがそれを問い質そうとした時――ラスの表情が苦痛に歪んだ。


ずきっ。ずきずきずき――



「う、ん……っ、痛い…お腹が…痛い…!」



破水していた。

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