魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
自分が不安そうな顔をしていると、きっとそれがラスにも伝わってしまう――
そう考えたコハクは努めて笑顔を作ると、ラスの手を握りしめて、今まで暗記するほど熟読した何十冊もの妊婦関連の本に書かれてあったことを思い浮かべた。
陣痛には間隔があり、その間隔が狭まってくると、いよいよ生まれてくるはず。
だが十月にも満たない間に陣痛が来てしまったし、そんなことは本には書かれてなかったが、マニュアルだけには頼らないコハクは、無事に生まれてくることを信じて握ったラスの手を揺すった。
「生まれてくる前からやんちゃとか、さすが俺とチビのベビーだよな。チビ…出産は代わってやれねえけど、ベビーが生まれてきたら、俺も育児に参加すっから。ベビーにも色んな世界を沢山見せてやろうぜ。ベビー、あんまママを苦しめるなよ」
コハクがラスの腹に向けてそう声をかけると、陣痛の波が引いてきたのか――ラスは大きく息をついた。
その間にグラースがいつも診てもらっている初老の男性の医師を伴って駆け込んでくると、内診をして頷いた。
「少し早いですが、大丈夫でしょう。ぜひお父さんも一緒にお産に参加してください」
「最初からそうするつもりだったし。チビ、俺…そっち側に行ってもい?」
「ふざけるな。お前はラスの手を握って勇気づけろ」
大きく脚を開いたラスの足元側を指してごくりと喉を鳴らしたヘンタイ魔王を静かに一括したのは、ラスではなくグラースだった。
金の髪と緑の瞳というラスに似通った容姿をしているためか、なんとなくグラースに強く出ることのできないコハクが唇を尖らせて残念がると、ラスが小さく笑った。
「コー…すごく痛いけど、ベビーが出て来たいって言ってるから頑張るね。お父様やティアラたちは間に合うと思う?」
「そんなすぐぽろっとは生まれてねえよ。あと何時間かはかかるはずだから…チビ、頑張ってくれ。俺とチビの家族…やっと生まれてくるんだ。チビ…」
コハクが長い間、家族を望んでいることを知っているラスは、言葉では言い表すことのできない激痛がまた襲ってきて短い悲鳴を上げながらも、コハクの掌に爪を食い込ませながらなんとか耐える。
孤独に苛まれて長い時をさ迷って生きてきたコハクに選ばれて、家族を望んでくれたこの人のために――
優しくて弱いこの人のために、元気な赤ちゃんを生んであげることが、自分の使命。
自分だけにしか、できないこと。
そう考えたコハクは努めて笑顔を作ると、ラスの手を握りしめて、今まで暗記するほど熟読した何十冊もの妊婦関連の本に書かれてあったことを思い浮かべた。
陣痛には間隔があり、その間隔が狭まってくると、いよいよ生まれてくるはず。
だが十月にも満たない間に陣痛が来てしまったし、そんなことは本には書かれてなかったが、マニュアルだけには頼らないコハクは、無事に生まれてくることを信じて握ったラスの手を揺すった。
「生まれてくる前からやんちゃとか、さすが俺とチビのベビーだよな。チビ…出産は代わってやれねえけど、ベビーが生まれてきたら、俺も育児に参加すっから。ベビーにも色んな世界を沢山見せてやろうぜ。ベビー、あんまママを苦しめるなよ」
コハクがラスの腹に向けてそう声をかけると、陣痛の波が引いてきたのか――ラスは大きく息をついた。
その間にグラースがいつも診てもらっている初老の男性の医師を伴って駆け込んでくると、内診をして頷いた。
「少し早いですが、大丈夫でしょう。ぜひお父さんも一緒にお産に参加してください」
「最初からそうするつもりだったし。チビ、俺…そっち側に行ってもい?」
「ふざけるな。お前はラスの手を握って勇気づけろ」
大きく脚を開いたラスの足元側を指してごくりと喉を鳴らしたヘンタイ魔王を静かに一括したのは、ラスではなくグラースだった。
金の髪と緑の瞳というラスに似通った容姿をしているためか、なんとなくグラースに強く出ることのできないコハクが唇を尖らせて残念がると、ラスが小さく笑った。
「コー…すごく痛いけど、ベビーが出て来たいって言ってるから頑張るね。お父様やティアラたちは間に合うと思う?」
「そんなすぐぽろっとは生まれてねえよ。あと何時間かはかかるはずだから…チビ、頑張ってくれ。俺とチビの家族…やっと生まれてくるんだ。チビ…」
コハクが長い間、家族を望んでいることを知っているラスは、言葉では言い表すことのできない激痛がまた襲ってきて短い悲鳴を上げながらも、コハクの掌に爪を食い込ませながらなんとか耐える。
孤独に苛まれて長い時をさ迷って生きてきたコハクに選ばれて、家族を望んでくれたこの人のために――
優しくて弱いこの人のために、元気な赤ちゃんを生んであげることが、自分の使命。
自分だけにしか、できないこと。