魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ずっと10ヶ月近くもの間、重たいお腹を抱えてきた。
お腹がぽこぽこと動く度に、胎内で“ベビー”と呼んでいる赤ちゃんが元気に動いてくれているのが嬉しかった。
コハクの長い生の中で、どれだけ彼が苦しんできたか――
想像できないほどの孤独と苦しみを抱えてもなおああして明るく振る舞っているコハクが、想像を絶するほどの人生を歩んできたこと…自分にはすべて理解してやることができない。
だって…コハクは苦しかった時代のことを、話さないから。
苦しんでいた自分自身に陶酔して、歩みを止めることをしなかったから。
「コー…嬉しい…?ベビー、生まれて来るよ…っ」
「…ん、嬉しい。でもチビが苦しんでる顔が1秒でも早く終わればいいって思ってる。ベビー、そろそろ出てきてもいいだろ?でないとお前がチビから出てくるとこ見ちゃうぞー」
「影、こんな時にふざけるな。ラス、頑張れ。頑張って僕たちに元気な赤ちゃんを見せて」
「うん…うん…っ」
“頑張れ、頑張れ”と励まし続けてくれる皆のためにも…と思い、腹を見下ろすと、胎内でするするとベビーが下に下に向かっているのがわかった。
それと共に、足元に居る医者が、大きな声を上げた。
「さあ、力んで!頭が見えてきましたよ!」
「チビ…頑張れ!もうすぐだ…俺とチビのベビーが…!」
渾身の力を込めて力んだ。
顔を真っ赤にさせて、デスとコハクの手首を掴んで力んでいるラスの気持ちにベビーが応えたのか、何度か力んだ時――
「おぎゃあ、おぎゃあっ!」
「あ…ああ…、チビ…生まれてきた…!チビ…!」
力いっぱい産声を上げる小さな赤ちゃん――
ラスの涙の通り道にすうっと涙が流れて、全力を使い果たしたラスが力なくベッドに倒れ込む。
コハクたちが固唾を呑んで見守る中、へその緒を切った医者がまず母親になったラスにベビーを抱かせる。
「可愛い…コー…男の子だよ。髪が黒くて、色が白くて…きっと瞳の色も赤いはず。可愛い…」
「ああ…すげえ可愛い。こんな可愛い生き物…チビの次に見た。小さいな…すげえ小さい…。よしよし、好きなだけ泣けよ。よしよし」
「コー、抱っこしてあげて。その次はデス。その次は…じゃんけんで決めてね」
コハクは、恐る恐る元気な産声を上げている男の赤ん坊を腕に抱いた。
…一生、こんな感動的な機会に恵まれることは無いと思っていた。
一生――
お腹がぽこぽこと動く度に、胎内で“ベビー”と呼んでいる赤ちゃんが元気に動いてくれているのが嬉しかった。
コハクの長い生の中で、どれだけ彼が苦しんできたか――
想像できないほどの孤独と苦しみを抱えてもなおああして明るく振る舞っているコハクが、想像を絶するほどの人生を歩んできたこと…自分にはすべて理解してやることができない。
だって…コハクは苦しかった時代のことを、話さないから。
苦しんでいた自分自身に陶酔して、歩みを止めることをしなかったから。
「コー…嬉しい…?ベビー、生まれて来るよ…っ」
「…ん、嬉しい。でもチビが苦しんでる顔が1秒でも早く終わればいいって思ってる。ベビー、そろそろ出てきてもいいだろ?でないとお前がチビから出てくるとこ見ちゃうぞー」
「影、こんな時にふざけるな。ラス、頑張れ。頑張って僕たちに元気な赤ちゃんを見せて」
「うん…うん…っ」
“頑張れ、頑張れ”と励まし続けてくれる皆のためにも…と思い、腹を見下ろすと、胎内でするするとベビーが下に下に向かっているのがわかった。
それと共に、足元に居る医者が、大きな声を上げた。
「さあ、力んで!頭が見えてきましたよ!」
「チビ…頑張れ!もうすぐだ…俺とチビのベビーが…!」
渾身の力を込めて力んだ。
顔を真っ赤にさせて、デスとコハクの手首を掴んで力んでいるラスの気持ちにベビーが応えたのか、何度か力んだ時――
「おぎゃあ、おぎゃあっ!」
「あ…ああ…、チビ…生まれてきた…!チビ…!」
力いっぱい産声を上げる小さな赤ちゃん――
ラスの涙の通り道にすうっと涙が流れて、全力を使い果たしたラスが力なくベッドに倒れ込む。
コハクたちが固唾を呑んで見守る中、へその緒を切った医者がまず母親になったラスにベビーを抱かせる。
「可愛い…コー…男の子だよ。髪が黒くて、色が白くて…きっと瞳の色も赤いはず。可愛い…」
「ああ…すげえ可愛い。こんな可愛い生き物…チビの次に見た。小さいな…すげえ小さい…。よしよし、好きなだけ泣けよ。よしよし」
「コー、抱っこしてあげて。その次はデス。その次は…じゃんけんで決めてね」
コハクは、恐る恐る元気な産声を上げている男の赤ん坊を腕に抱いた。
…一生、こんな感動的な機会に恵まれることは無いと思っていた。
一生――