魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ふわふわでやわらかくて、羽みたいに軽くて――

自分の血を分けた赤ん坊が今腕の中にいることが未だに信じられないコハクは、瞬きを忘れてしまったかのように、泣き続ける赤ん坊を見下ろしていた。

最初は絶対女の子がいいと思っていたが…この子の顔を見た瞬間、そんな思いは吹っ飛んだ。

とにかく無事に生まれてきてくれたこと…そして、無事に生んでくれたラスに感謝してもし足りない。


「チビ…ありがとな、こいつ…すげえ可愛い。ものすごく…」


「コー、私もまだあんまりベビーの顔を見てないんだから後で抱っこさせてね。次はデスだよ、コー、抱っこさせてあげて」


本当は渡したくなかったが、ベビーの命を助けてくれたのは、まだぽかんとしているデスだ。

人が人を生み出すという神秘の体験は、デスにも何らかの変化を与えていた。

自分は創造神に造られて、気が付けば鎌を握っていて、子供時代はない。

だが今目の当たりにした光景は、人が人を生み出し、そして生まれ落ちた瞬間から産声を上げて、父親の…コハクそっくりの男の子が誕生したこと――無表情ながらも、言いようのない程に心が打ち震えていた。


「……俺……怖い……。抱っこ…したくない…。落としそう……」


「大丈夫。デスに絶対抱っこしてもらいたいの。ね、お願い、デス…」


まだ苦しそうにしているラスが声を枯らしながら懇願するので、それを無下に断ることができないデスは、椅子に座ってコハクを見上げた。

元気な声で泣くベビーに限りない愛情のこもった優しい眼差しで見つめていたコハクは、デスの膝にそっとベビーを乗せた。

デスは恐る恐ると言った態でベビーの頭を支えて、じっと顔を見つめる。

どの位見つめていたかわからないほど見つめていると、泣き疲れたのか、むにゃむにゃと口を動かして大人しくなった。


「………可愛い…」


「可愛いでしょ?コーにそっくりだから絶対かっこよくなると思うの。デス…これからもベビーを沢山抱っこしてあげてね。ベビーの遊び相手になってあげてね?」


「……うん…」


「次は私たちもいいかな?」


ベビーを抱っこしたがる列ができてしまったので、皆が代わる代わる生まれ立ての赤ん坊を抱っこしては瞳を細めて可愛がる。

皆に抱っこしてもらった後、腕の中に戻ってきたベビーにお乳をあげる時がやって来た。


母親になる第1歩だ。
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