魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ベビーはすこぶるお利口さんで、滅多に泣くことはなかった。

ベッドのすぐ隣にベビーベッドを設置してそっと横たえさせると、泣くでもなくじっとしていて、むにゃむにゃ口を動かして寝てしまった。

体力を使い果たしたラスは、ベッドから出ることができずに上半身起こした状態で夕食を摂り、周囲にはなんだかんだ言い訳をしてベビーに触りたがるリロイたちが居た。


「目が開くのはいつかなあ。コーみたいな綺麗で赤い瞳がいいんだけど」


「うーん…チビは誉めてくれるけど、赤は不吉の象徴なんだ。だから俺は親から捨てられたんだぜ。ま、ベビーは絶対捨てたりしねえけど…心配かな」


親から捨てられた理由は、瞳の色が赤くて不気味だったから――

それを知っていたラスは、労わるようにベッドに腰掛けてずっと手を握ってくれているコハクの手の甲をつねると、ぷうっと頬を膨らませた。


「やだやだ絶対赤い瞳じゃなきゃやだ。ベビーは絶対パパ似だから赤だよきっと。絶対かっこよくなるんだから」


ベビーを絶賛しまくるラスも相当な親馬鹿だったが、コハクはそれを遥かに上回る親馬鹿で、眠りから覚めて少し声を上げたベビーを抱っこすると、ラスにするようにぺろぺろと頬を舐めた。


「次は絶対女の子だから、お前は優しくて強い兄ちゃんになるんだぞ。何があっても妹を守る騎士になるんだ。いいな?」


「あぶー」


まるで返事をしたかのような声を上げたベビーに一同が頬を緩めると、それぞれ政務があるカイとリロイは、名残惜しさ満点の顔で最後にもう1度だけベビーの頭や頬を撫でた。


「僕たちは帰らなきゃいけないけど、何かお祝いの品を贈るよ。時間を調整してなるべく多く会いに来るから」


「うん、次はベビーの目が開いた頃くらいかなあ?コー、結婚式の準備もしなきゃっ」


「ああ、そうだな。いよいよ…俺とチビの結婚式…!チビのウェディング姿…」


何を想像しているのか…鼻の下を伸ばしてでれでれしている魔王をガン無視した面々は、後ろ髪引かれる思いで部屋を後にした。

コハクは、お乳をあげる用意をしていたラスの白い胸を見てごくりと喉を鳴らして、怒られるのを覚悟でおねだり。


「お、俺もベビーみたいにお乳が飲みたいなー」


「うん、わかった。はいどうぞ」


「!!じょ、じょじょじょ冗談だって!…やべえ!コーフンしてきた!荒ぶった俺が収まるまでバルコニーに居るから!」


…父親になった魔王は、やはりヘンタイだった。
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