魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスにはひとつだけ気がかりなことがあった。

ベビーを抱っこしている時、右手はいつも胸をまさぐっているのだが…左手は握り拳を作っていて、開かないのだ。

身体をくすぐっても楽しそうに笑いこそすれど、左手は開かない。

最初はすぐに開くだろうと思っていたのだが…翌朝になっても、左手は開かないままだった。


「ねえコー…ベビーの左手…どうしちゃったのかな。病気…?」


「や、どうかな。確かにちょっと気になるけど…風呂でも入れたらもしかしたら開くかも」


ベビーに人差し指を握られてでれでれしていたコハクがそう提案すると、ラスはさっとベッドから降りて胸元のリボンを緩めた。

色ぼけ魔王はわくわくしながらその様子を見ていたのだが――ラスが地団太を踏んで、コハクの腕からベビーをさらった。


「コー、お風呂入るからついて来て。左手…心配なの。絶対開かせたいの」


心配をするラスは母親そのもので、コハクは大してそのことを気にしていなかったのだが、元よりラスの裸はいつだって見たい。

特にお腹がぺったんこになっていつものスリムな体型に戻ったラスの裸とあれば、鼻息荒く立ち上がったのは、もう仕方ないと言える。


「お、お手伝いいたします!」


「ベビー、ママに左手を開いてみせて。ね?ベビー」


「あきゃきゃ」


ばたばたを手足をばたつかせるベビーの産着を脱がせてラスも裸になり、コハクはラスの裸をガン見しながらシャツの袖を捲ってスタンバイした。

ラスがゆっくりとベビーと一緒にバスタブに入ってお湯に浸からせると、ベビーがへらっと笑った。

コハクとラスも思わずへらっとなってしまい、ラスが頭を支えてやっている間に、コハクがベビーの胸にお湯をかけてやる。

途中からコハクに顔に向けてお湯をかけられたりしたラスがコハクに仕返しをしていると――リラックスしたベビーの左手が…ゆっくりゆっくりと、開いた。



「こ、コー…!手の中に…!」


「これは……水晶…?」



固く握られたベビーの左手の中には、小さな水晶の欠片が。

きらきらと輝く純度の高い水晶からは、小さいながらも強力な魔力が感じられた。


「もしかして…俺の身体の中に流れてる液体になった水晶が…結晶に…?」


「コー、すごいよ、すごく綺麗!ベビーがコーの身体の中から持って来ちゃったんだよ!すごいよコー!ベビー!」


まるでお守りのように握られていた水晶をまた握ってしまったベビーは、嬉しそうに声を上げてコハクに手を伸ばした。
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