魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その後ラスの産後の経過は順調で、産後鬱になることもなく、まだ首の座っていないベビーを大切に抱っこして、バルコニーに出て日向ぼっこをしていた。

ベビーは夜泣きするでもなくラスたちの手をほとんど煩わせなかったが、ベビーベッドに寝かせると少しぐずり、一緒にベッドに寝ると、機嫌よく爆睡。

コハクの最大のライバルになってしまったベビーはいつもラスにべったりで、ラス命の色ぼけ魔王はうりふたつのベビーの頬を指で突きまくった。


「おいこら、チビを独り占めすんのは反対だぞ。お前なあ、俺が今までどんだけ苦労して耐えてきたか…」


「ねえコー、ベビーの名前は考えたの?男の子なんだから、“ベビー”って呼ばれるのはいやなんじゃないかな」


「そっかあ?いやまあ考えてたけど、チビが気に入るかどうかわかんなかったし」


椅子を引き寄せてラスの隣に座ると、ベビーが手を伸ばしてきたので抱っこしてやりながら小さな命を見下ろす。

すこぶるお利口さんなベビーは、名前を考えたというコハクの顔をじっと見つめてへにゃっと笑った。


「あのな…………ってのはどうだ」


「わあ、可愛い名前。私は賛成だよ。意味があるの?教えて教えて」


コハクがラスの耳元でこそこそ小声で話をしている姿をまたじっと見つめたベビーが抗議の声を上げる。


「あきゃあ」


「たまには俺がチビを独占したっていいだろ。チビ、そろそろウェディングドレスの制作に取り掛かろうぜ。どんなデザインのやつなんだ?」


「あのね、2年前にコーが言ってたでしょ、“胸のとこががばって開いたやつ”って。だからそういうデザインにしてみたよ」


一瞬記憶を手繰り寄せるように腕を組んで空を見上げたコハクの表情に、みるみるだらしない笑みが浮かぶ。

あの頃はラスの胸もまだ成長過程でその案は拒絶されたが…今だったら、最高のものが拝めるはずで、くつくつ笑ったコハクの頬をつねったラスは、ベビーを奪ってコハクから離れた。


「パパが気持ち悪い顔してるから離れようね。ねえコー、私の体型、前みたいに戻ったと思う?ドレスが窮屈だったらショックかも」


「わかった、今日じっくり見てやるよ。……意味…わかるか?」


「え…?…う、うん…いいよ…」


恥らって俯いたラスに散々萌えさせられた魔王は、内心有頂天になりながら平静を装って部屋の中へ引き返した。
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