魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ベビーを見に来たデスは――腕の中のベビーに骨の小指を握られて、困った顔をしていた。

かれこれ1時間近く指を離してくれずに楽しそうに脚をばたばたさせていて、ラスは目を丸くして真向かいのソファに座りつつ紅茶を飲んでいた。


「ベビーはデスが大好きなんだね。さっきから小指を離さないけど…迷惑じゃない?」


「……大丈夫…。…あ…」


話している間にデスの小指を口に入れてちゅうちゅうと吸い始めたベビーは、そこからお乳が出ないことにきょとんとした顔をしてラスを笑わせる。

コハクが居ない間はラスとベビーを一任されていたデスがぐずって嫌がるベビーをラスに手渡すと、ラスはまた頓着なく胸を露わにして、デスを身じろぎさせた。


「見たくないもの見せちゃってごめんね、ベビーのお乳をあげないと。はいどうぞ」


勢いよくお乳を吸い始めたベビーは心底幸せそうな顔をしていて、またラスもベビーと同じような愛しさを込めた表情でベビーを見つめている。

…本来ならば感動的な光景だっただろうが――デスは内側から疼く例の理由のわからない疼きが身体を襲い、少しだけ前のめりになった。


「ベビーの体重が毎日増えていくの。少しずつ重たくなって、表情も増えてきたんだよ。まだ左手の中の水晶はあんまり見せてくれないけど、すっごく綺麗なんだよ」


「………ふうん……」


「見たいならお願いしたら見せてくれるかもよ?ベビーはデスが大好きみたいだから」


ラスの金の長い髪がさらりと零れ、ベビーがその髪を握る。

急に自分も触れてみたいと思ったデスは、まだ身体が疼きながらもラスの隣に移動して、恐る恐る手を伸ばしてラスの髪を背中に払ってやった。

小さな声で“ありがとう”と言って笑ったラスの白い胸から目が離せなくなったデスは、ラスからすごく良い香りがして、首筋に顔を近付けて鼻を鳴らすと、ラスがちょっと困った顔をした。

…なんだか急に意地悪をしてやりたい気分になってやめずにいると…ベビーが大きな声を上げた。


「だぁーーー」


「お乳はもういいの?お昼寝させてあげなきゃ。パパがもうすぐ帰って来るから抱っこしてもらおうね。…もうデスったら私を嗅がないでっ」


「………いい匂い……」


花のような甘い香り。

いつもこんな良い香りを発しているラスと一緒にコハクは居るのかと思うと、羨ましくなって、また自分自身を呪った。
< 666 / 728 >

この作品をシェア

pagetop