魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
今まで再三ラスに“好き”と口にしているが…ラスには届いていないような気がする。

だがコハクが“愛してる”と言うと、とても嬉しそうに笑って…今よりももっと綺麗になる。

もし自分が“愛してる”と言えば、ラスはコハクに見せるような笑顔を向けてくれるのだろうか?


「………俺…魔王……好き…」


「コーのこと?うん、コーはヘンタイでおかしなことばかり言うけど面白いよね。コーに直接言ってあげたら喜ぶと思うよ」


「……魔王…悲しませたく…ない…」


「え?喧嘩でもしたの?珍しいね、でもすぐ仲直りしてくれた方が嬉しいな」


眠たそうに欠伸をしたベビーをベッドに寝かせて髪を撫でてやっているラスの横顔を見つめたデスは、コハクとの今までの軌跡を振り返った。

――遠い昔、いきなり魔界に乗り込んできたコハクが傍若無人に現れ、皆が躍起になって向かって行ったが悉く返り討ちに遭って誰もコハクを止めることができない中、最終的に自分がコハクの前に立ったこと――

“止めなければ”というよりも、“やらなければ”と思っていた。

自分の世界は魔界だけだったから、この世界だけは守らなければ、と。


『へえ、お前死神なのか。その手面白いな、ちょっとよく見せろよ』


あの頃のコハクは…荒んだ瞳をしていた。

生きることに飽きながらも死ぬことができず、力を振るって暴れることで鬱憤を解消し、死神の鎌を持って向かっていく自分を嘲笑いながら攻撃を避け、ひと太刀も浴びせることができなかった。

戦いは丸1日を要したが、結局決着はつかず、最後に鳩尾に拳を食らって気絶してから目覚めた時――何故か人間の世界に居て、魔王城と呼ばれる城に連れ込まれていた。


『お前も一匹狼みたいだな。ま、不干渉で仲良くやろうぜ。で、その手を…』


実験好きなコハクに散々手をいじられて、同じ時間を共有しているうちに――とても寂しさを覚えている男なのだと思った。


「………魔王……俺と…同じ……」


昔のコハクと今のコハクはまるで違う。

ラス一筋のコハクと同じことをしてしまえば…きっと関係が崩れてしまう。

はじめて覚えたこの気持ちは、ラスには言うことができないが――コハクには、打ち明けよう。


そう決めたデスは、きょとんとしている顔のラスに歩み寄って頭をよしよしと撫でると、ラスがふわっと笑った。

その笑顔を胸に刻んで、コハクの居る書斎室へと脚を向けた。
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