魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ノックもせずにデスがのそりと書斎に入ってきたこと自体全く驚かなかったコハクは、書類から顔を上げることなくペンでソファを指した。


「今忙しいからそこ座っとけ」


「………魔王………話…聞いて…」


「後で聞くからちょっと待ってろって。ったく…最近あれこれ事業はじめやがって忙しいんだよ俺は」


勧められたソファに膝を抱えて大人しく座ったデスは、それっきり何も言わずにコハクに穴が開く程見つめていた。


随分表情が増えたコハク。

やわらかく微笑んだり、声を上げて笑ったりすることなどあまりしたことがなかったが、ラスと出会って随分丸くなった気がする。

本人は認めないかもしれないが、魔王は…優しくなった。



「……俺……ラス……好き…」


「ああ?俺の方がぜってぇ好きだし。張り合っても無駄だぞ、俺のチビへの愛は無限の…」


「…………愛…してる…」


「…はあ?」



コハクが顔を上げて、真っ赤な瞳を瞬かせた。

デスは冗談を言うようなボキャブラリーは持ち合わせていないし、それに…あまりにも予想外のことを言われたので、ぽかんとせずにはいられなかった。


「愛ってお前…チビをか?“愛”って“好き”よりも上だぞ?」


「……うん…。…でも……ラス……魔王と一緒…1番可愛い…。俺……邪魔…しない……」


コハクにはまたデスのその言葉が真実だとわかっていた。

いわばラスはデスの初恋の相手に選ばれたわけだが、デスはラスをどうこうしようと思っているわけではなく、はじめて抱いた感情を純粋に伝えようとしただけだろう。

またラス自身にそれを伝えなかったのは、デスなりの配慮。


本来のコハクならラスを愛していると知って怒髪天にくるところだったが――ペンを置いて立ち上がると、俯いているデスの隣に移動してソファに座り、肩を抱いた。


「そっか、チビは可愛いもんな。で?まさかキスしたり抱きたいって思ったりしてんじゃねえだろうな」


「………キス……口より下…駄目って言われた………。だから……口より上……したい…」


「うううん、難しい!駄目って言いてえけど…お前が恋したこと自体めでたいことだしな、目を瞑ってやるよ。でもぜーーーったいチビには変なことすんなよ。わかったな?」


「………変なこと…って…なに…?」


「わっかんねえならいい!学ぶな!ほら、一緒に部屋行こうぜ。愛しのベビーとチビに会いに行こう」


コハクに怒られずに済んだ――ほっとしたデスは、コハクに肩を抱かれたまま一緒に立ち上がると、ベビーと爆睡していたラスの元へと戻った。
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