魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
城に戻って部屋に着くと、コハクはラスを抱っこしたままバスルームへ行こうとしたが、ラスの抵抗に遭った。


「やだコー、1人で入るから待ってて」


「え、なんで!?一緒にはい…」


「お願い。…なんか…恥ずかしいから…」


恥ずかしがって頬を赤らめるラスに爆発寸前の色ぼけ魔王は、ラスを丁寧に降ろしてやると、バスルームに駆けこまれてドアにぴったりと耳をあてた。

魔法を使えばもちろん音や姿だって聞こえるし見ることができるが――チラリズムが大好きなヘンタイ魔王は、暖炉に火を入れて、暖炉の前に毛布やソファをセッティングしてぼうっとしていた。


ベビーが生まれてからずっとベビー中心の生活で、ラスに構う時間が減っていたので気が変になりそうだった。

この前まではずっとラスの影だったから、離れることなど想像すらしていなかったが…家族に恵まれて母親になったラスがさらに可愛く見えるようになったし、今でもラスは“母親”ではなく、“女”だ。


「体型なんか気にしなくったっていいのに。そんなこと気にするなんて可愛いじゃん」


「嘘。私が太ったら絶対文句言うでしょ。私わかるんだから」


振り向くと、ラスが白いバスローブ姿で、バスタオルで髪を拭きながら頬を膨らませてコハクの前に立った。

コハクはラスを見上げたままソファに寄りかかって肩を竦めると、大きく首を振った。


「文句なんか言わねえって。現にチビは全然太ってねえじゃん。逆に痩せたんじゃねえのか?抱き心地悪いの反対!」


腰を上げたコハクはバスルームに向かいながら、ラスを指してひとつだけ忠告をした。


「寝るなよ!すっごく楽しみにしてんだから!すぐ戻って来るから、頼むから寝ないで!」


「ふふふ、うん、わかった。早く戻って来てね」


ふう、と息を吐いて髪を拭きながら、今はデスにお守をされているであろうベビーを想った。

泣いてはいないだろうか…ぐずってはいないだろうか?

お乳を欲しがってはいないだろうか?


「ベビーはデスが大好きだから大丈夫だと思うけど……あれ?コー?」


考える時間もなくバスルームから出て来たコハクをぽかんとした顔で見上げたラスは、艶やかな黒髪から滴る水滴に見惚れた。

髪から頬に…頬から首筋を伝い、鮮やかな赤い瞳が優しげに緩む。


これから…久々にコハクに抱かれるのだ。

ラスは緊張でがちがちになってしまった。
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