魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
朝になっても誰も起こしに来ない――

コハクがドアに魔法でロックをかけているのだとすぐにわかったラスは、隣でまどろんでいるコハクの頭にちゅっとキスをしてベッドから抜け出そうとした。

だが右手はしっかりと握られていて、ぶんぶん振っても何をしても離れない。

途方に暮れてじっと見つめていると、コハクの肩が揺れた。


「もお、コーったら起きてるんでしょ?ベビーにお乳をあげないと今頃お腹が空いて泣いてるかも」


「もうちょっと。もうちょっとだけ2人で居ようぜ。こんな時間ベビーが大きくなるまでなかなか取れなくなるんだからさ」


上半身裸のまままたラスを抱き寄せてぎゅうっと抱きしめたコハクは、甘い香りのするラスの唇をねだってキスを交わした。

とにかく底なしの体力持ちのヘンタイ魔王がもう一戦…と思った時、ドアの向こう側の廊下から泣き声が近付いて来るのが聞こえた。


「ベビーだ、やっぱり泣いてる…。コー起きて、ドアを開けて」


「はいはい。ちぇっ、仕方ねえな」


コハクがひゅっと指を振るとドアからかちりと音がした。

するとすぐにベビーを抱っこしたデスが入って来たので、ラスは泣いているベビーを受け取ってソファに腰掛けた。


「きゃあああん」


「お腹空いたでしょ?はいお乳あげるからね。わあ、すごい勢い。デスごめんね、ベビーいっぱい泣いたでしょ?」


「………いい子に……してた…」


ベッドに腰掛けたデスがラスのお乳を勢いよく吸っているベビーの姿…いや、ラスを見ていることに気付いたコハクは、デスを羽交い絞めにして両手でデスの両目を塞いだ。


「おいこら、どこ見てんだ。チビをエロい目で見やがったらお前と言えど許さねえからな」


「……エロ…?」


首を傾げたデスを羽交い絞めにしたまま、ベビーがお乳を飲み終えるまでずっとそうしていたコハクは、来週に迫ってきた結婚式の準備に毎日追われている。

グリーンリバーにも触れを出しているので、この街を治めているコハクとゴールドストーン王国の王女が結婚式を挙げることに街は沸き立っていた。


「よっし、エネルギーも補給したし!準備してくっかー。チビ、今日ウェディングドレスが完成するらしいから後で試着してみようぜ」


「うんっ。コー、楽しみだねっ」


「おうよ。張り切るぞー!」


脚をばたばたさせているラスに瞳を細めて微笑んだコハクは、意気揚々と部屋を出て書斎室に向かった。
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