魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
不死の魔法をかけること自体にもう不安はなくなった。

自分が失敗するはずがないし、何よりラスが信じてくれている。

だから、失敗した時のことは考えない。


「こらチビ―、早く戻って来いって。風邪引くぞー」


「だって楽しいんだもん!きゃあーっ」


ウェディングドレスを脱いだ後コハクにしっかり防寒具を着せてもらったラスは、グリーンリバーの外でソリに乗っていた。

ソリを引いているのはトナカイに似ている魔物で、ベビーを抱っこしたラスは歓声を上げて銀世界を楽しんでいた。

その周りをまるで昔のように馬に乗ったリロイが笑顔で見守り、ベビーがきゃっきゃと笑い声を上げている声が聞こえる。


「魔王、とうとう結婚式までこぎつけたわね」


「ああ、やっとだな。ま、お前が先に結婚しちまって喜びが半減なんだけどなー」


「悪いと思ってるわ。でもあなたなら絶対ラスを諦めないって思ってたし、ラスもあなたを諦めなかった。誰にも負けない絆だと思うわ」


ソリから降りてしっかりベビーを抱っこしたラスが雪を踏みしめながらその音を楽しんでる姿から目を離さないコハクは、鼻を鳴らして肩を竦めた。


「そんなの今さらだな。障害が多ければ多いほど燃えるってもんだし、正直あそこの小僧は何度殺しても殺し足りねえからな。でも俺も親になったし。少し落ち着こうと思う。お前らも若いうちに早くガキ作った方がいいぜ」


「余計なお世話よ。私たちもまだまだ忙しいけれど、必ず結婚式には駆けつけるから。楽しみだわ」


「ティアラーっ、一緒にソリに乗ろっ」


転んで雪まみれになりながら立ち上がらないラスに焦ったコハクがどこか怪我をしたのかと抱き起こすと、ラスは鼻の頭を真っ赤にして白い息を吐きながら、笑顔を爆発させていた。


「ベビーがすごく楽しそう。今ゴールドストーン王国は冬だし、式が終わったら庭で遊ばせてあげようよ」


「ん、そうすっかー。そら、そろそろ戻るぞー、風邪引いて結婚式延期とか絶対いやだからな!」


魔物が現れても対処できるようにと辺りをくまなく見回っていたリロイとグラースが戻って来ると、ラスはまだ遊び足りないのかぐずるベビーの頬にちゅっとキスをしてグリーンリバーに戻る。


ラスは隣を歩くコハクを見上げて横顔を見つめた。

影だった愛しい男が――ようやく正式に自分のものになる。
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